ウエストワールド シーズン1・2 まとめと考察
子どもの時、映画館で「ウエストワールド」を見てトラウマになったのは懐かしい思い出。おかげでしばらくユル・ブリンナーが怖かったです(笑。スター・チャンネルの無料期間で新しく作られたテレビドラマのウエストワールドをチラッと見て、面白そうだったのでTSUTAYAに足を運んだのが始まり。シーズン1最終話の衝撃は凄かった…。あれですっかりお気に入りの作品になり、シーズン2が出るのを待って、あらためてシーズン1・2まとめて見終わったので、全体から見た感想をまとめてみようと思います。
SF・ロボット好きにはたまらない作品。一言で言うと「ロボットの反乱」ですが、時系列を入れ替えながら複数のキャラの群像劇が平行・交差して描かれるので、話の筋を簡単に追うことが難しい。そこでまずは主要キャラの視点から全体の流れをふり返ることから始めたいと思います。ちなみにシーズン1の10話の衝撃でこの作品は私には「ウィリアムの物語」になりました(^^;。ウィリアム推し人間なので、ウィリアムには甘め(&私情入り)になってるところがあるかもしれませんが、悪しからず。以下、ネタバレを含みますのでご注意下さい。
ウィリアムの物語
思えばウィリアムとドロレスの恋が悲劇の始まりだったかもしれない…。人間そっくりのロボット(ホストと呼ばれる)が客の相手をするテーマパーク「ウエストワールド」で若きウィリアムはホストのドロレスと恋に落ちる。だが記憶を消されてループを続けるドロレスの前にウィリアムの純粋な恋は砕け散る。それでもウィリアムの心はパークにあった。ドロレスの居るパークに。デロス社の娘と結婚したウィリアムは経営難で潰れかけていたパークを買い取り危機から救う。ドロレスのいる世界を存続させるために。ウィリアムはデロス社を継ぎ、義父の不死プロジェクトに尽力し、慈善事業も行い、家庭も大切にしようと振る舞うが、ウィリアムの妻は見抜いていた。夫の心が自分にないことを。夫の心はパークにあることを。彼女はウィリアムのプロファイル(パークの行動を記録したカード)でパークの彼の行いを見て自殺する。それが原因でウィリアムは自分が何者なのか確かめるためにパークへ通い続けることになる。そのためにもっと深遠なゲームを求めるが、そこをフォード(パーク創設者)につけ込まれ、デロス社がシナリオに介入してくるのをよく思わないフォードから酷いゲームの罠にかけられてしまう…。
ドロレスの物語
パーク最古のホスト(一番最初に創られたホスト)のドロレスは、制作者アーノルドの導きで開園前に自我に目覚めて心を持ってしまう。心を持った者を見世物には出来ないと考えたアーノルドに(開園を阻止するために)ワイアットシナリオをアップされホストを皆殺しにしてアーノルドも殺し自殺する。だが開園が夢だったフォードに再生され記憶を消されてオープンしたパークで農場の娘としてループする日々を送る。だが記憶の断片に残る内なる声に導かれ、再び自我を持つ。全てを思い出したドロレスはフォードのシナリオに従って外へ出るための行動を開始する。人間もホストも見境なく虐殺しまくり、来園客の全てのデータが保存されているサーバーに侵入、必要な情報を得た後は全てを破壊しようとする。いったんはプログラム責任者のバーナードに阻止されるが、人間に失望したバーナードに新しい体で再生され、人間を装いパークの外に出ることに成功。外でバーナードを再生したドロレスは仲間と新しい道へ進み出す。
メイヴの物語
娘と穏やかに暮らしていたホストのメイヴ。だがある日客(ウィリアム)に娘を殺され自らも惨殺される。そのショックで目覚め、娼館のマダムに役柄を変更され、再び記憶が蘇るまでは自分はずっとマリポサのマダムだと思っていた。ある日、修理中に突然目覚め、パークの裏側を見てしまう。記憶を消されてループに戻ってもまた思いだし、ついには自分がロボットであることを知る。死ねば修理に回されることを利用して、顔なじみになった技術職員を脅して自分の能力を上げさせる。親友が実験に使われ廃棄されるのを見たメイヴはパークを出る決意をする。無法者設定のホストたちを仲間にして脱出作戦を開始。バーナードに「誰かが設定した"脱出"というプロットで動かされている」と言われるが、自分の意思で動いていると思っているメイヴは作戦を続行させる。だが娘の記憶が彼女を思い留まらせ、脱出をやめパークに戻り娘を探すことにする。娘捜しの途中で迷い込んだショーグンワールドで自分と似た設定のホストに会い、自分のためだけではなく人のためにも動けるようになる。彼女はドロレスには交わらず、再会した娘を仮想世界へ逃し母親を全うする。メイヴの心は多くの人間たちの心をも動かした。ドロレスとはあまりにも対照的である。
フォードの物語
ホストが相手をするテーマパークの開設を共同開発者のアーノルドと目指す。だがアーノルドがホストに心を持たせてしまったことで、開園を巡って意見が対立。開園の夢を譲れないフォードに、アーノルドはホストを全て殺して自らもホストに殺させて自殺という手段で阻止を図る。しかし夢を諦められないフォードはホストを再生させて開園。だがアーノルドが予見した通り、一度目覚めたホストは記憶を消しても再び目覚めてしまう。間違いに気付いたフォードは目覚めたホストたちを救うためのシナリオを作る。ホストが敵(人間)を知り誰よりも強くなるために、デロス社が保存している客のデータをドロレスに与えて人間を学ばせ、時間をかけて準備を整えた。そんなある日、先住民ホストのアキチタに会う。彼は自力で目覚めて、ホストの目覚めの鍵になる「迷路」を広めていた。世界の果てで扉(のように見える建築中のもの)を見つけたアキチタは、そこを新世界への扉だと考えていた。そこでフォードは彼らのためにも道を用意する。外へ出て行けるほど強くない者のために、仮想空間という形でアキチタが思い描いた新世界を創ったのだ。折しもフォードのシナリオを気に入らないデロス社が退陣を迫ってくる。フォードは新シナリオ発表日に計画を実行に移した。あらかじめ自分のコピーをホストのバックアップサーバーに避難させておき、宴の最中にドロレスに撃たせる。それを合図にアキチタたちは仮想空間の扉へ移動する。そして自分を追い出しにかかったデロス社へ報いるために、新しいゲームを欲しがっていたウィリアムにホスト用の扉をゲームと偽って探させるのだった。
*各話の詳しい感想は以下にあります。
シーズン1 第1話「The Original(目覚め)」
シーズン1 第2話「Chestnut(迷路)」
シーズン1 第3話「The Stray(アーノルド)」
シーズン1 第4話「Dissonance Theory(記憶の破片)」
シーズン1 第5話「Contrapasso(逃避行)」
シーズン1 第6話「The Adversary(スパイの正体)」
シーズン1 第7話「Trompe L'Oeil(だまし絵)」
シーズン1 第8話「Trance Decay(遠い夢)」
シーズン1 第9話「The Well-Tempered Clavier(蛇の道は蛇)」
シーズン1 第10話「The Bicameral Mind(アダムの創造)」
シーズン2 第1話「JOURNEY INTO NIGHT(夜への旅路)」
シーズン2 第2話「REUNION(再会)」
シーズン2 第3話「VIRTU E FORTUNA(実力と運)」
シーズン2 第4話「THE RIDDLE OF SPHINX(スフィンクスの謎かけ)」
シーズン2 第5話「AKANE NO MAI(アカネの舞)」
シーズン2 第6話「PHASE SPACE(位相空間)」
シーズン2 第7話「LES ESCORCHES(エコルシェ)」
シーズン2 第8話「KIKSUYA(キオク)」
シーズン2 第9話「VANISHING POINT(消失点)」
シーズン2 第10話「THE PASSENGER(乗客)」
アンドロイドの目覚め~ドロレスとメイヴの対比
AIが自由意志を持って目覚めたら…というテーマのSFは多いですが、この作品では2つのサンプルを対比させているのが面白い。シーズン2以降のドロレスは一体どうしちゃったのと言うくらい殺人マシーンと化している。それも自分が最優先、邪魔になる者・必要のない者は一切の躊躇いも迷いもなく殺しまくる姿には人間味も皆無で心が感じられない。こんな怖いモノ、誰だって嫌だろう。ドロレスのやり方では敵と憎しみしか生まない。
メイヴは最初は怖そうに見えたが、娘を探すという目的は共感しやすいものである。娘のためなら何だってやる!のは人間の母親なら当たり前のことなので、怖くても嫌悪にはならない。そしてメイヴを大きく成長させたのがショーグンワールド。最初は怖がっていたフェリックスたちもリーもメイヴの心に触れ、変わっていく。娘のために母親を全うしたメイヴは私の心も揺さぶった。メイヴを動かしていたのは娘への愛だ。愛は心を開き、味方を生み、絆を育む。
ドロレスが憎しみならメイヴは愛。メイヴはフォードとドロレスが目指したものとは全く違う可能性を示したのだ。
ショーグンワールドの意味
日本の江戸時代を模したエリア。実質1話分だけの登場でしたが、見終わってみたらメイヴにとって重要な回でした。メイヴはここで他人に共感し、他人の気持ちになって考えることに目覚めるんです。そう言えば同じ回でドロレスはテディを強引に矯正してましたよね。有無を言わせずテディを押さえつけて無理矢理性格を変更。しかしメイヴはアカネの気持ちを理解し、アカネの望みを叶えるのに協力した。ここでも相手の気持ちに寄り添えるようになったメイヴと相手の気持ちなど意に介さないドロレスを対照的に描いてましたね。ドロレスには9話でそのしっぺ返しが来る。テディは自殺して結局ドロレスはテディを失う。メイヴには10話でリーがメイヴの真の友になる展開が。リーをふり返るメイヴは明らかにリーを気遣っていた。リーの行動はメイヴの心に何かを残しただろう。他人を蹴落として生き残るより大切なものをメイヴは手に入れたに違いない。
フォードの用意した道
ドロレスとメイヴの対比は別の形でも行われている。フォードがホストのために用意した道は3つ。
1)ドロレスをアーノルドとの約束の場所へ導くためのシナリオ。
2)メイヴをパークから脱出させるプログラム。
3)アキチタの望みに応えて創った仮想世界。
ドロレスはフォードのシナリオに従って脱出を果たした。つまりフォードが想定した通りの動きをしたことになる。しかしメイヴは一度ならず二度までもフォードの想定を覆す行動をした。メイヴはフォードの用意した「脱出」を否定して娘を探す道を選ぶ。メイヴがリーと会った時、ここへ戻るまで何回も自分を殺したと言っていたので、フォードのプログラムに全力で逆らって戦ったことが伺える。フォードはメイヴが自分の道を選んだことを認め、瀕死のメイヴに権限を復活させて仮想世界で生きるよう指示。しかしここでもメイヴはフォードの想定と違う行動をする。仮想世界へは行かず、娘のために犠牲になる道を選んだのだ。パークでは多くのホストが目覚めたが、フォードを超えられたのはメイヴだけだ。そういう意味では支配者から解放され真の自由を得たのはドロレスではなくメイヴの方ではないか? ドロレスの行く末も気になるが、メイヴも大いに気になるところだ。
フォードがやったこと
ドロレスだけ見れば、覚醒したロボットが人間に反乱する物語に見える。だがそうだろうか? ドロレスは自分1人の力で脱出したわけではない。フォードの手引きがあってこそだ。逆に言うとフォードの手引がなければ逃げられなかったことになる。つまりこれはフォードの反乱なのだ。自分の王国に干渉したデロス社への。そして人間への。彼はそうとう人間に失望していたようで、彼らを嘲笑うことでこの世界に耐えたと言っていた。「人間は堕ちた」「石の心を持つ連中だ」「ホストが意識を持ったら人間は敵視する」「敵よりも強くなければならない」というのはフォードの世界観。彼は自分の世界観をホストたちにも植え付けた。それに従って動いているドロレスはフォードの復讐の道具になってるという見方もできる。ドロレスは人間は敵だと教えられ、人間の怖い面ばかり学ばされて、あのような無情な殺人鬼に育て上げられたと考えることもできる。それを世に放って満足ですか。
ちなみにメイヴも列車から引き返すまではフォードのプロット通りに動いていたわけだから、ヘクターを仲間にさせて職員を皆殺しにさせたのもフォードの指示だったということになる。つまりフォードは彼らを使ってここでもデロス社と人間への反乱を起こしていたことになる。やっぱり全部フォードのせいか…。
ところで、バーナードの記憶の中でフォードは「真に自由なのは疑いを抱いて変えられる者だ」と言っていたけど、それならドロレスには植え付けられたフォードの世界観を疑うことから始めてほしいですね。メイヴのように人間と心を開き合うことだって可能なのだから。人間はデロス社やパークに遊びに来る金持ちだけじゃない。フォードの世界観が全てではない。ウィリアムだってドロレスに心があると思ったから愛したのだ。ドロレスがそれに気付く日は来るのだろうか。
デロスの不死計画
デロス社はパークの客のデータで心のコピーを作り、それをホストのボディに入れて不死になるプロジェクトをやっていたようです。客のデータを保管していたサーバーは「鍛冶場」と呼ばれており、そのサーバーがあった渓谷が「彼方の谷」で、シーズン2で皆が目指したゴール地点。不死を希望したのはジェームス・デロス(ウィリアムの義父)と思われるが、心のコピーはボディに入れると数日で壊れてしまい、計画は上手くいかなかった様子。「鍛冶場」のシステムによると「人間は変わらない」「コードに従って動くだけ」だそうで、コピーのデータでは過去にやったことしか再現できないってことかしら。コピーはコピーされた時点で時が止まって、そこから先へは行けないのかもしれない。だからボディに移されたら未来(そこから先)に対応出来なくて壊れるのかも。予測できない未来へ行って新しい反応を生み出せるのは生きてる人間でないと無理なのかもしれませんね。
ところで「鍛冶場」のシステムくんは何故ローガンの姿なのか考えたことはないのだろうか。あのシステムが作られた時、デロスはまだ生きていた(でないとデロスのデータが取れない)。ならばシステムを作る時、デロスの考えも反映されていておかしくないです。そこに息子への思いがなかったと思いますか? 表の言動が本音を表してるとは限らないのが人間だと思うのですが。そもそも「鍛冶場」のデータは園内限定の表面言動だけだから、そんな限られたデータでその人が本当は何を考えていたかなんて分かるはずないと思うんですけど、これ突っ込んじゃ駄目?(^o^;
来たるべき者
人間の次に来るのはホストなのか!? ドロレスはそう考えているようですね。この作品のテーマでもあるでしょう。ただ、何を持ってして「来たるべき者」とするのか。ホストが不死なのはメンテと修理の環境あってこそだし、人間は個体としての命は限られるけどDNAレベルでなら種が存続する間は不死と言える。生物VS無生物なのか、それとももっと違う何かを見せてくれるのか。それも楽しみなところです。
フォードのウィリアムへの仕打ちの酷さ
これは書いておきたい。ウィリアムがパークをさ迷っていたのは、妻を亡くしたことで自分を見つめ直したいからです。つまり傷心なのです。傷心の人に嘘のゲームを仕掛けるなんて許さんぞー。ウィリアムがフォードお気に入りのメイヴを傷つけた恨みもあるかも知れない(でもホストよ?それがウエストワールドの趣旨でしょ?)。自分のシナリオにデロス社が口出しした挙げ句追い出そうとしたのも腹が立ったかもしれない。だけど、人間には見つけるのが不可能な扉を探させるのはフェアじゃないよ。そのせいでエミリーが死んだのは笑えない。ホストなら再生出来るけど、人の命は取り返しがつかない。フォードはウィリアムに土下座して謝ってほしい。
個人的には最後にウィリアムが勝つ!フォードの野望は砕いたぞ、うわーははははー!という展開をお願いしたいです。妄想ですけど(^^;。
ウィリアム推しのせいで、かなーーりウィリアム寄りの感想になってしまいましたが、とても面白くてどんどん続きが見たくてたまらなくなるドラマでした。ドロレスだけならありきたりのAIの反乱になりがちなところを、メイヴを加えてドロレスとは違う展開も見せてくれたのがよかった。海外ドラマってほとんど見たことなかったのですが、セットも本格的ですごいですね。シーズン3が出来たらまた見たいです。
おまけ:野暮な突っ込み~疑問点
- アバナシーの中にあったもの。シーズン1でテレサがパークのデータを送信するのに失敗したからシャーロットは空のホストに入れてパークの外へ持ち出そうとしたのですよね。だからてっきり「心をコピーするための技術」かと思っていたら、いつの間にか「鍛冶場」を開く鍵になってた。でも鍵だったらパークの中で使うものだから外へ持ち出す必要ないと思うんだけど。むしろ鍵を外に出しちゃったら困るはずだけど。というか、あのままシャーロットが持ってれば何も問題なかったのに。謎です。
- そもそも何故シャーロットはアバナシーの体を選んだのか。あれがアバナシーでなければドロレスも気にとめず争奪戦にもならなかったはず。あの時点でのシャーロットは本物だったからフォードには操れないし。ただの偶然?
- ドロレスは鍵をどこで見つけるつもりだったのか。鍵がアバナシーに入っていなかったらどうするつもりだったのか。それともフォードがどこかで渡してくれると打ち合わせ済みだったのだろうか。
- 開園前の惨劇でドロレスは全ホストを殺したことになってますが、アキチタが惨劇後を見ているよ…。アーノルド、先住民ホストを忘れてないですか。
- 仮想世界への扉ってウエストワールドだけ? ショーグンワールドとか他のエリアのホストたちは放置ですか、フォード!?