竜とそばかすの姫

竜とそばかすの姫 BD

2021年
時間 121分
監督 細田守

すずは人前では大好きな歌も歌えない地味な女子高生だったが、友人の誘いでインターネットの巨大仮想世界<U>に入り、歌姫ベルとして人気者になる。だが<U>の世界を荒らす竜と出会ったことで彼の存在が気になり始める。竜の正体は誰なのか、なぜ「U」を荒らすのか? 現実と<U>を行き来しながら竜を探すすずに大きな決断が迫る──。

映画館で見られなかったのでレンタルで鑑賞。インターネットの仮想空間が舞台になっていますが、真のテーマはそこ(IT)ではなく、人の心と気持ちですね。<U>は50億のユーザーを抱える巨大ネットワークで、「サマーウォーズ」に出てきた「OZ」とはまた違うようです。こちらは純粋にコミュニティとして機能している模様。今作の世界では視覚も<U>と同期するので本当にその世界に入っているかのような疑似体験が出来るみたいで、私も<U>に入ってみたいなーと思わせてくれます。

主人公のアバター名がベル、竜の様相、竜の城──というシチュエーションから「美女と野獣」を連想しましたが、Wikipediaで確認したら本当に「美女と野獣」がモチーフになっていたらしい。ベルのキャラデザも静止画では気にならなかったけど、動くとディズニーアニメーションを見てるような圧覚に陥ったり(CGのなめらかな動きが昔のディズニーの手書きフルアニメを思わせる)、歌うところもアナ雪に見えてきたりして、細田守を見ながら同時にディズニーも楽しんでいるような不思議な感覚がありました。ベルと竜のシーンはきれいでファンタジックで見所&お勧め。

が、現実に戻るといつもの細田作品(笑。しかしこのディズニー調の<U>と細田調の現実の対比が、終盤のすずの決意に感情移入させる効果を上げてくれた気がします。仮想空間と言えど、その先には現実がある。美しいベルと現実のすずは「美女と野獣」の本質を描いてもいると思える。仮想空間の美しさを見せてくれた上で、しっかり現実を生きようと思わせてくれた作品でした。

<ネタバレ>

仮想世界もいいけれど、今作の本質にあるのは、母を亡くして心に傷を負っていたすずが、親の虐待に苦しむ少年と出会って、心の傷を解放し一歩踏み出せるようになる…というところにあると思います。すずの母は他人の子を助けようとして亡くなった。すずはそこがずっと引っかかっていた。だが竜の正体が親から虐待を受けている子どもだと知り、彼らを助けたいと思った時、あの時の母の気持ちが分かるようになる。母の行動を理解し肯定・共感することで止まっていたすずの時間が動き始めた。

すずは竜の兄弟(恵と知)の信頼を得るために、<U>の中でベルの正体を現し、現実の自分の姿で歌う決意をつける。ベルでしか歌えなかったすずがついにすずの姿のままで歌えるようになり、見かけの姿を超えた共感が<U>の50億のユーザーたちに広がる。すずの歌は恵たちに届き、恵たちとすず自身にも現実と立ち向かう勇気を与える。戻ってきたすずに、ずっとすずを気遣っていた父、合唱隊の人たちが「お帰り」と言うのが心に染みます。これは母の死を乗り越えて本来のすずが帰ってきたことへの「お帰り」でもありますよね。

<U>の中で正義のヒーローを気取っていた自警団の人たちは「美女と野獣」のガストンのオマージュふうでもありますが、ネットでよくある「正義の暴走」の皮肉でもあるかな。「正義の暴走」はやっかいです。自分の行いは正義だと思い込んでいる分、悪と分かってやってるのより始末が悪い。これは自覚がないまま巻き込まれることもあるので、常に自戒していきたいものです。

すず(ベル)と竜の兄弟のドラマがメインなので、しのぶくんの存在感が薄いとかはありますが、作品の本質・テーマの部分で感動できたのでよし。自分を閉じ込めていた人間が頑張って自分を解放する物語は普遍的ではありますが、だからこそ共感しやすい。「美女と野獣」の「見かけではなく本質を見る」というテーマも仮想世界と現実世界の対比で上手く表現できていたと思います。

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