千年女優

千年女優 BD

2002年
時間 87分
監督 今敏

映像製作をしている立花源也はカメラマンの井田を連れて、引退して30年になる映画女優藤原千代子のインタビューに訪れる。千代子はかつて無くした「鍵」を立花から受け取り、「鍵の君」との思い出を語り始める。千代子の話は彼女の出演作のシーンとも交錯しながら幻想的に繰り広げられていくのだった。

今敏の得意とする現実と幻想が交錯する作風。引退した女優にインタビューを行っているのですが、その語りが彼女の出演作品のシーンと重なりながら進むんですね。伝説の大女優なので出演作品は多数、作品の時代も多肢に渡っている。それらがランダムにつながれると、まるで過去から未来まで時空を越えて旅してるような不思議な感覚に陥る。

しかも立花が千代子の大ファンのため彼女の話に入り込んでしまい、話はますます錯綜状態に。相手の話に入り込んで自分も話の中に登場してるような気持ちになる時ってこんな感じかもなあ。そんな千代子と立花についていかなきゃいけないカメラマンの井田くん、ご苦労様です。でも井田くんのおかげで読者も状況把握しながら話を追えるんですね。

千代子の話の中心は「鍵の君」。少女の時、警察に思想犯として追われる絵描きの青年と出会い、彼から1本の鍵を預かる。そこから男に鍵を返すための彼女の人生の旅が始まる。映画会社「銀映」の看板女優で多数の作品に出演するが、30年前に突然引退。以来隠居生活になり世間から姿を消していた。「鍵の君」の話がどうなるのかも気になるが、今作の一番の見どころはやっぱり錯綜する時空が織りなす夢と現実が一緒くたになった不思議な世界ですね。映像見てるだけでも飽きないです。

<ネタバレ>

千代子は「鍵の君」を追うために女優になった。彼がいると思われる場所で撮影する映画に出て、彼を探す。だが彼は見つからない。だから千代子は女優を続けた。映画を通して「鍵の君」を追い続けることを自分に課して(それが呪い)。千代子が1人の男を思い続けて、男から預かった鍵を大切にしているのは周囲の人たちにも周知のことになっていたようだ。千代子に言い寄る銀映の大滝も、千代子が来る前まで銀映のスターだった詠子も。そして若い頃、銀映で働いていた立花も。立花はこの時から既に千代子のファンだった。

千代子は一度鍵を無くす。自分の支えを失った千代子は大滝と結婚するが、実は鍵は大滝が詠子に盗ませたことが判明。千代子と結婚したい大滝が仕組んだことだった。鍵を見つけた千代子は女優に復帰。だが撮影中に事故が起こった時、自分にも老いがくることに気付く。いつまでも「鍵の君」が蔵に描き残した少女ではないことに。千代子はその場から失踪、現場に落ちていた鍵に立花が気付いて拾って持っていた。立花の取材は千代子に鍵を返すのも目的の1つだった。

実は立花は「鍵の君」がどうなったか知っていました。千代子が幻を追っていたことも。でもそんな千代子だから応援し続けたのでは。立花から鍵を受け取った千代子は女優だった頃の自分を取り戻す。「鍵の君」に老いた姿を見せたくないと引退した千代子だったけど、やっぱり彼女は女優業(追いかける自分=演技すること)が好きだったのだと最後の台詞から分かります。

インタビュー後に倒れた千代子は中断した撮影の続きの世界に飛び立って行く。彼女に鍵が戻ってよかったと思う。昔の自分を思い出すことで女優が好きだったことに気付き、女優人生を「呪い」から「肯定」に変えて逝くことができたのだから。

千代子の最後の言葉

これは千代子が女優人生を肯定できた台詞であると同時に、「大事なのは目標(鍵の君)ではなく、目標に向かって進むこと」でもあると受け取りました。言い換えれば「夢は叶わなくてもいい、夢を追いかける過程にこそ意味がある」ということですね。夢が叶わなければ夢に向かって進み続けることが出来る。夢が叶ったらもう進めなくなってしまう。だから14日の月がいい。15日は満月になって後は欠けるだけだから。14日の月なら明日がある。追い続ける千代子は14日の月(明日への希望)なのです。