009 RE:CYBORG

2012年
時間 104分
監督 神山健治

世界は各地で起こり続ける同時多発テロに脅かされていた。その原因を探り阻止するためにギルモア博士は世界中に散ったサイボーグたちを呼び集める。だが解散してから27年、00メンバーたちの事情も複雑化しており、それにサムエル・キャピタル社の思惑、テロ実行犯が聞いた「彼の声」、世界各地で発見される「天使の化石」も絡み、謎は深まっていく。009たちはエスカレートするテロの惨劇を防げるのか──?

石ノ森章太郎のファンになった少女はサイボーグ009を読みふけった。それは秋田書店10巻の「天使編」で突然、切れてしまった。えっ、途中で終わってるよ、続きはないの!? その後、朝日ソノラマから出た愛蔵本「サイボーグ009 その世界」で「神々との闘い」を読むことが出来た。が、これも途中で終わっている。その本の巻末で石ノ森氏は009のその後に少し触れており、続きの構想はあると書かれていた。

少女は待った。続きを待った。しかし人は成長し変化する。少女は大人になり自分の現実に近い作品を好むようになった。少女はもう待たなくなり009を卒業した。2001年に新しいテレビシリーズ(平ゼロ)が始まったのは、私が009と石ノ森章太郎から離れて大分経った頃です。この時の作画監督が紺野直幸で、かつて私があんなに切望した「石ノ森章太郎の線」を衝撃の忠実度で再現してくれてました。あああっ、009熱が高かった頃に会いたかったよー、紺野ジョー様に! しかしさすがの私でも絵だけで舞い上がれる時期はもう過ぎてしまっていたらしく、平ゼロは途中で挫折(^^。私の絵への拘りもかつてほどではなくなっていたようです。

前置きが長くなりましたが、ここで「009 RE:CYBORG」です。今作の最大の特徴は絵柄がこれまでの009シリーズと全く違う!ことですね。以前の私なら問答無用で拒否していたところです。しかし平ゼロの時点でもう絵への拘りはなくなっていたので、今作のキャラデザインはむしろ新鮮に受け入れられました。リアルなキャラ造形がかっこいいじゃないですかあー。009たちも時の流れを感じさせ、皆さん成熟した大人の演技になっていらっしゃる。もうアニメと言うより洋画を見てるようだよ…。

映画館で3D観賞。全編3DCDで作られたこの作品は背景や周りの描写も凄いです。ビル破壊や都市が壊滅していく描写など、こんなのこれまでの日本アニメで見たことがないっ。009の加速装置もスローモーションから爆速までたっぷり見せてくれて凄い迫力。期待以上のものを見せてもらえて大満足です。人物は3DCGで作られたものを線画ふうに出力してるので、これまで親しんだセル画アニメとしても違和感なく、かつ実写的な3Dの背景とも問題なく溶け込んでいて、海外3Dアニメとはまた違う日本の3Dアニメの答の1つを見た思いがしました。

今作ではどのキャラも新しい造形を得て新しい魅力を見せてくれてますが、中でも「おおっ」と思わせてくれたのは003ですねっ。いつも001を抱っこしてるイメージが強かったのが、成熟した大人の女性へ! 009とのあのシーンはここまでやる!?とドキドキするほどでしたが、素敵だったよ、フランソワーズ。彼女にだってこういう描写があっていい、003を解放してくれたのが今作の大きなポイント。あと006がかっこよく活躍してるのにも驚いた(これもいい)。

話の内容は世界同時多発テロに絡める形で、原作未完の「天使編」「神々との闘い編」に神山監督流の決着をつけてみた、という感じ。009の最終話としては、むしろ小野寺丈が手がけたGOD'S WARよりもこちらの方が好きです。今作の神は石ノ森章太郎が描こうとしていた神とは違うけれど、石ノ森氏への敬意も入ってるし、冷戦時代に生まれたサイボーグたちの物語としてなら(GOD'S WARではそこから変えられている)私はこれで満足です。

<ネタバレ>

今作では冷戦終結で009たちは解散したことになってます。さらにサイボーグは歳を取らない設定になってるので、見かけの年齢が18才のジョーは歳を取らないことを隠すために3年ごとにリセットしながらずっと高校生を続けてたらしい。なかなか強引な設定ですが、無理な生活を続けたおかげで「彼の声」が聞こえるようになったと言うことらしい。

ギルモア博士と001は同時多発テロはアメリカの陰謀と考えてたので、アメリカ国家安全保障局にいる002は独自路線を行くことになります。解散時に009と確執があったらしく、まずはそこを乗り越えて、と言うことになりますね。その分、終盤には009&002をやってくれます。リアルに描き直された002は特徴的な長い鼻がなくなっても002だと分かるところはさすが。

007と008の出番が少なかったのは残念。天使の化石発見役だけで終わってしまいました。天使の化石は「彼の声」を聞くトリガー。今作では神は人間が生み出した概念であり人間の脳こそが神であると解釈してます。つまり「彼の声=神の声=自分の声」です。原作の「天使編」では天使は人類は出来が悪いから滅ぼしてやり直すと言うのですが、009たちは神の理屈で勝手に滅ぼされるのは嫌だと言い、神と戦うことを決意する。今作はそれを形を変えてやっているのではと感じました。天使を脳の中の神に置き換えて、テロの阻止を神との戦いに見立てて、人間の中にある神と悪に挑むという図式にしたんだと思います。分かり難いけど、攻殻機動隊の神山監督らしいやり方だと思う。なお今作の天使は神ではなく、神に抗う人たち(009のような)のモニュメントだったと003が解釈してます。

石ノ森章太郎が描こうとした「天使編」「神々との闘い編」

1977年出版「サイボーグ009 その世界」の巻末で大まかな構成が語られてます。「天使編」「悪魔編」の2部構成で作品全体のタイトルが「神々との闘い」なのだそうです。神(人間を創造した異星人)に009たちが対抗するのが大筋。そのままじゃ勝てないから001から超能力をもらい、エスパー戦士になってからは精神世界から大宇宙の果てまであらゆる時空を駆け巡りながら壮大なスケールで戦いを繰り広げるという構想だったようです。

しかし描かれないままに石ノ森氏は逝去…。009は未完の作品となりました。今にしてみればこの構想は冷戦が終わるまでに描かれるべきだったのではと思う。009は冷戦の中で生まれた時代を映す作品。ベルリンの壁が崩れてからは009そのものが時代に合わなくなっていったのでは。

時代の変化と「神」の再解釈

GOD'S WARは冷戦設定をやめることで時代に合わせようとした。RE:CYBORGでは冷戦設定は生かしたまま神の再解釈(異星人→人間自身の内なる声=集団無意識)を行うことで時代に合わせようとした。石ノ森氏にとっては神の再解釈は構想そのものを破棄することに等しく、それは出来なかっただろう。しかし冷戦設定は009たちの根源であり、そこを変えるとこれまでの話は何だったんだになってしまう。今作は石ノ森氏の構想を破棄する代わりにスピリット(本質)だけ受け継いで、009の根源を保持したまま石ノ森氏の描こうとした「人類がもし悪だったら人類のために戦う009たちの正義とは何なのか」にトライしたのではないでしょうか。

なお003のセーフハウスについては、実は神山監督はちゃんと答を用意してて、それによると宇宙で爆発後に回収された009と002が修理再生され目覚める時に見た夢なんだそうな。つまり2人とも助かって「神々との闘い」にケリをつけられたから、これから009たちの新しい物語が始まるよ!てことらしいです。

石ノ森章太郎への敬意とオマージュ

今作は2通りの解釈が出来るようになっています。1つは作中でも語られる神は人間の脳が生み出した概念で、天使の化石も人間が創ったモニュメントという解釈。もう1つの解釈はラストの月の裏側で示される。月に天使の化石がある!?ということは、天使は人間の考え出したモニュメントではなく、実は異星人だったという解釈の余地を生む。

天使が異星人なら、人類を創造した異星人が「出来が悪かった場合は自ら滅んでもらう」というプログラムを脳に仕込んでいたとしても話は成立する。009がそのプログラムに抗い打ち破ることで人々がそれに共感し、人類は仕込まれた自滅のプログラムから逃れられたとも考えられる。これなら神を異星人として描こうとしていた石ノ森章太郎の意に沿うことになり、石ノ森氏の構想の一部が生かされることにもなる。

どちらの解釈が好きかは見た人の自由でどうぞ、でいいんじゃないですかね。今時ストレートに宇宙人の侵略と戦うぞーじゃ陳腐すぎるので、神への考察を行った作品として見つつ、でももしかしたら宇宙人かも!?と思ってみる、というところが今作の落とし所かなあと思います。

終わらせなければ、始まらない

009を時代を映す作品として復活させてくれたのはよかったと思う。9.11を踏まえて、冷戦後の社会の不安を描くことで2012年の009として成立させてくれた。どういう形であれ、もう諦めていた「天使編」「神々との闘い編」に解の1つを示して終わらせてくれたのはありがたい。おかげで私の中でも少女時代に置き去りにしたままの009を終わらせて再起動することが出来た。これからはまた新しい気持ちで009を楽しんでいきたいです。

参考作品:2012 009 conclusion GOD'S WAR

クラブサンデーでつまみ読みした程度ですが、009たちの誕生を2005年にリセットした時点で、冷戦生まれ009たちの物語の続きになっていないと思うのですが…(^^;。

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