メッセージ

2016年(日本公開は2017年)
時間 116分
監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ

世界各地に12基の謎の宇宙船が現れ、言語学者のルイーズは物理学者のイアンと共に「彼ら(ヘプタポッド)」が地球に来た目的を調べることになった。ヘプタポッドの文字を少しずつ解読し、会話を重ねるルイーズ。ヘプタポッドの情報は世界で共有するはずだったが、不審を抱き情報をシャットアウトする国も現れ、各国の協調は崩れ始めていた。そんな時、ようやくルイーズはヘプタポッドが地球に来た目的を聞き出すことに成功するが、その答は…?

本格SFらしいと聞いて期待を持って見てみた作品。宇宙人が来た→よっしゃバトルだ!とならないのは大変よろしい。そもそも全く異なる環境で進化・発展した生物が地球人と同じ思考形態になるとは思えないので(すぐ侵略を考えるような)、こういった「宇宙人は地球人とは思考そのものが違うはずだから、どんな思考をするのかまずはそこから知ることが大切」系のSFもどんどん出てきてほしい。宇宙人の文字を解読しながら会話を進めていく様子は面白かったです。

その過程でいくつか興味深い事もあり、「思考は話す言語で形成される(サピア=ウォーフ説)」という考えは面白いと思った。例えば英語と日本語では違う感覚が育つ、みたいなところはあるんじゃないかなと思った。「表意文字」「表語文字」という言葉が出て来たのも興味を引いた(表語文字はロゴグラムと発音していた)。日本語の漢字は表語文字だし広義では表意文字でもあるし、ヘプタポッド文字のお仲間じゃないですかー。墨絵みたいなヘプタポッド文字が複数のパーツの組み合わせになっているところも偏や旁で構成される漢字を思わせて面白かった。表語文字仲間として親近感持ちますね。

しかし宇宙船は12基あり、ヘプタポッドと交流を試みているのはアメリカだけじゃない。情報を共有して世界が一致団結して事に当たるはずだったのが、ヘプタポッドを脅威と見なして歩調を崩してくる国や地域もあるわけで…。時々挿入されるルイーズの娘の回想も何を意味する? そしてヘプタポッドからの返答がもたらしたものは…。

<ネタバレ>

ヘプタポッドが「武器を提供」と返答したことで世界に緊張が走り、中国がヘプタポッドに宣戦布告するなど一種即発の事態を迎えるわけですが、「武器」の正体は「ヘプタポッド語で得られる時間の解放」だった。ヘプタポッド語には時系列がなく時間を流れとして見てないらしい。ここでサピア=ウォーフ説が適用されて、ヘプタポッド語で思考できるようになると時間から解放されて未来を見ることが出来るようになる、ということらしいです。この考え方は面白かったですが…。

ヘプタポッドから時間という武器を与えられたルイーズは未来を見て事態回避の方法を知り、その通りに実行して危機回避する。え、でもこれ、小説家がこれから書く小説を未来からカンニングして書くのと同じでは…。それはやっちゃ駄目だと思ってしまうのは、私が時の流れに縛られている人間だからか? 未来のルイーズが自分が何をやったのか知らないのもおかしい。それともルイーズの中では現在も未来も同時に存在するため現在の自分がまだやってないことは未来の自分も知らないってこと? だとしたら私の理解を超えてます済みません分かりません(;;。

これまで積み重ねてきたワクワク感がシャン上将の件に引っかかって崩れてしまったため、娘の回想が実は未来の出来事でした!というオチにも素直に入れなくなってしまった。娘の未来は変更可能な未来なのか、ルイーズに娘を産まないという選択肢はあるのか。それとも、過去・現在・未来が同時に存在することで未来の出来事も記憶(=既に起こったこと)となり、未来はもう決定済みで変更不可能ということなのか。

娘の未来が変更可能ならば敢えてその未来を選んだルイーズの決断は感動を呼ぶ。しかし変更不可能ならば、それは私たちがいつか死ぬことを受け容れているのと同じレベルの話になってしまい、特別なことでも何でもなくなってしまう。そこには決断も選択も存在しないからだ。それと、もし本当に時間の概念がなくなって過去・現在・未来が同時に存在するようになったとしたら、人生に対する考え方だって根本から変わってしまうと思うので、ルイーズの達した境地は私たちの尺度では計り知れない気がする。

言語と時間を関連付ける発想は新鮮で斬新でした。ただその概念が分かりにくいのが惜しかった。もう少し上手く腑に落ちるように(少なくともシャン上将の件を納得させてくれるくらいには)説明してもらえたらよかったのですが。時間の概念はよく分からなくても、どういう思考形態を持っているか分からない相手と文字を介してコミュニケーションしていく過程はとても面白かったので、その点は十分評価できる作品。

追記:原作「あなたの人生の物語」を読んで思ったこと

映画を見た後で原作小説「あなたの人生の物語」を本屋で見かけたので買って読んでみました。それで分かったことは、やっぱり原作の時間概念では「未来は変えられない・ルイーズには娘を産まない選択肢はなかった」ということです。これはヘプタポッド文字で未来を知る力を手に入れた代わりに未来を変える力を失った女性の物語、だったのです。詳しくはこちらに。

原作の主題は「時間への認識の変容」なので、私が引っかかったシャン上将は出て来ない。未来からカンニングして戦争を回避するのは映画オリジナルの演出だったのですね。ここで疑問。原作でルイーズが娘を産むのはこの手のパラドックスを起こさないためです。パラドックスを容認したら過去も未来も改変可能になってしまうから。時間への介入は行わないのが原作のルール。でも映画では「未来からのカンニング」という形で時間への介入をやっちゃってますよね(原作の未来視はそういう使い方をするためのものじゃない)。

確かに原作をそのまま映画化するのは難しいだろうから、何かエンターテイメントな演出を入れたかったのでしょうけど、やっぱりパラドックスを入れたのはまずかったと思います。そのせいで矛盾と混乱が生じて話が分かりにくくなってるし、下手すると超能力で世界を救う話と受け取られかねなくなってる。そこは別の形で上手くまとめてほしかったところです。

補足:映画時系列のまとめ(原作読了後に見直して整理したもの)

冒頭の「天上から映し出される部屋」は終盤で挿入される「天上から映し出される部屋」と同じです。これはヘプタポッドが去ってルイーズとイアンが結婚し、2人がこれから娘をつくろうとしているシーンなのです。この時点でルイーズは完全な未来視を身に付けているので、続く娘のシーンは未来の回想ということになります。そしてルイーズの回想は未来から過去へ、ヘプタポッドが来た時に移ります。ここから本編がスタートします。

本編中(過去回想)でルイーズがどうやって未来視を身に付けていくかが描かれます。最初の娘の未来視はヘプタポッド文字の解析中に起こります。ルイーズはヘプタポッド文字を調べるうちにヘプタポッド語でも夢を見られるようになった。ヘプタポッド語には時制がないので、ヘプタポッド語で見る夢には未来も映るという解釈でいいと思います。しかしこの時はまだ完全にヘプタポッド語を理解できていないので、未来の夢もまだ未来だと自覚できるところまでは行っていない。だからルイーズは「この子はだれ?」と聞くのです。

そしてヘプタポッドが去った後、再び「天上から映し出される部屋」に戻り、ルイーズは娘の回想と織り交ぜながらイアンと踊り、「子どもをつくろう」「ええ」という流れになります。そしてルイーズはあなた(娘)の物語の本当の始まりは今ではなく、イアンのプロポーズを受け容れたあの時だったと思う。そのシーン(基地撤退中にルイーズとイアンが抱き合うシーン)で映画は終わります。

つまり「天上から映し出される部屋」が映画の中での現在時点で、ルイーズはこれから娘をつくろうとしながら、未来の回想(娘)と過去の回想(ヘプタポッド)をしていることになります。