龍の歯医者

龍の歯医者 BD

2017年
話数 全2話 各46分
監督 鶴巻和哉

NHK BSプレミアムでやっていたのを見て気に入って録画したアニメ。タイトル通りだけど、龍の歯医者という発想が斬新。空に巨大な龍がいて、龍の歯を守る人たちがいる。歯に虫歯菌がつくと龍が弱るので、虫歯菌を退治するのが彼らの仕事。主人公のノノコも龍の歯医者。

初めて見た時は冒頭の図が動くところからぞくぞくっとし、作中に取り込まれた。次々出てくる虫歯菌たち、きゃっと思うやつ、ぞわぁとするやつ、ひいぃと思うやつ、ビルのような巨大な歯、龍に乗って生活する人たち、どれもこれも初めて見る不思議な世界で見ているだけで魅了される。今までになかった設定・世界観なので、虫歯菌を退治するシーンだけでもワクワクします。あらゆるアイデアは出尽くした感があったけど、まだまだ新しい発想の開拓は出来るんだと思わされました。

龍とは何か。それは問題じゃない。人の生死を司る場所、それを龍の歯で表現している。この世界では人は死ぬ時、龍の歯を通る。龍の歯を巡って生きること、死ぬことを問う作品。

前編 天狗虫編

戦争中の世界。ある時、龍の歯から敵国の少年士官ベルが出てくる。彼は「黄泉帰り」で、不吉な前兆とされるが、ノノコはベルを自分の後輩にして龍の歯医者として鍛える。虫歯菌の種類はたくさんあるが、中には危険なものもある。危険な虫歯菌の1つ、天狗虫が出現し、歯医者の1人が「来たる際」を迎えた。龍の歯医者たちは皆自分の死ぬ時を知っている。

世界観と龍の歯医者の説明、歯医者たちの仕事や生活の様子を描いた導入編。龍の歯医者になれるのは運命を受け容れた者だけ。ノノコも自分の運命を受け容れたので龍の歯医者になれた。だがベルはそれに疑問を持つ。運命に従うだけでいいのか、運命に逆らってもっと生きたいと思わないのかと。これはノノコとベルのどちらにも頷けてしまう。黄泉帰ったベルは自分の疑問にどんな答を見つけるのか。そして歯医者の仲間にも疑問を持った者がいた…。

後編 殺戮虫編

抜け落ちた龍の歯と共に地上に落ちたノノコとベルは、龍の歯を狙う敵兵から逃げて歯を龍に戻そうとする。しかし追いすがる敵兵は味方の戦闘機を奪い龍に向かう。歯が1本抜けた龍は弱り、抜けた龍の歯の跡から殺戮虫が出現。殺戮虫は膨れ上がって地上に広がり、敵味方なく人々を襲う。歯を龍に戻そうと奮戦するノノコ、龍に乗り込んだ敵兵のリーダーに立ち向かうベル、地上を覆う殺戮虫は倒せるのか──?

龍の体から離れた歯はバレーボール大の玉になってしまいます。この「歯」を巡ってノノコたちと敵兵との争奪戦になるのですが、自分の死期を知ってそれに従うということは、逆に言うとその時が来るまでは死なないってことで、それはそれで最強では?と思ってしまう(^^;。ノノコの「来たる際」は今じゃないので、ノノコがどれだけ無茶をしても安心してアクションを楽しめるということはある…。しかし2回目の生であるベルは?

<ネタバレ>

運命を受け容れる龍の歯医者に対して、運命に抗って運命を変えようとしたシバナ姉さん。シバナは龍の歯に入るために天狗虫を自分の体で飼い、龍の契約を無効にするために敵兵のブランコに協力した。しかしそんなシバナを龍は生かした。これはシバナが変えたかったのは恋人の死と仲間を龍から解放することで、自分のためではなかったからだろうか。

そういえばベルの疑問もノノコの運命についてであって、自分が生き延びたいということではなかったと思う。ベルはノノコに出会ったことで「自分の生き方」を見つける。ブランコとの決着はベルに似合いの知的な立ち回りだった。龍がベルを黄泉帰らせたのは親知らずのためだったかもしれないけど、ベルにとっても「いい生」になったのではないか。ベルの生は短かったけど、どれだけ生きたかではなくて、どう生きたかの方が大事というのは私も思っていることである。

難しいことはさておいても、アニメとしてとても面白い作品でした。まだ見たことのない世界を求めている人にお勧め。歯の中の表現や、シバナ姉さんの虫歯菌バージョンも魅力的。殺戮虫編の冒頭のように私もいつかどこかで龍を見られることがあったらいいな。