ブラック・スワン
年 | 2010年 |
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時間 | 108分 |
監督 | ダーレン・アロノフスキー |
バレリーナのニナはバレエ団の公演「白鳥の湖」で主役のチャンスをつかむ。主役は純真な「白鳥」と邪悪な「黒鳥」を演じ分けなければいけない。ニナは白鳥は問題なくても黒鳥に課題があった。黒鳥を演じるため頑張るニナはその緊張とプレッシャーからだんだんおかしくなっていく──。バレエにかける情熱に潜む狂気を描いたサイコスリラー。
バレエってきれいですよね。本物の舞台は見たことないけど、テレビなどで時折目にするプリマたちの動きには魅了されます。「白鳥の湖」って知ってるようで知らないから、そういうお話だったのかーとか、トゥシューズってあんなふうになってるのかーとか、作品テーマとは関係ないところで知識を増やさせてもらったり(^^;。
で、問題の今作の主題はプリマのプレッシャーで主人公がおかしくなっていく様を描くもの。おかしい、と言えばニナの家庭もかなり"おかしい"感じです。かつてバレリーナだった母は娘のニナに夢を託してるようで、過干渉ぶりが時にホラーに見えるほど。ニナは自分の意思でバレリーナになることを選んだのだろうか、とちょっと考えてしまいました。
ニナの追い詰められた心境を描くのにCGがとても効果的に使われていて、ぞっとする気分を盛り上げてくれます。幻覚と現実が入り交じって境界がなくなっていく感覚は今敏の「パーフェクトブルー」を思い起こさせる。クライマックスのアレは圧巻。映画ならではの表現ですね。なおR15指定のある描写(性方面)もあるので、そこはご注意を。
<ネタバレ>
演出家のトマにプリマ抜擢されたニナは、追う立場から追われる立場になって、代役のリリーに主役の座を取られてしまわないか疑心暗鬼にもかられていく。プレッシャーでヘトヘトになっていたニナは公演初日に遅刻しそうになり白鳥の舞台で失敗、自分の控え室で黒鳥の衣装をつけていたリリーを殺してしまい、その狂気はニナに最高の黒鳥を舞わせた。──が、実はリリーを殺したのは幻覚で、ニナが突き立てたガラスの破片は自分自身に刺さっていた。怪我に絶えながらニナは最後の幕を完璧に演じきって倒れる──。
壊れていくプリマドンナを見事に描ききった凄い作品──とは思ったけど、えっ、ちょっと待ってよ、これ初日でしょ、公演はまだ数日続くだろうに初日に燃え尽きちゃってどうすんのよ!?と余計なことを思ってしまったのも事実(汗。明日からはリリーが代役で穴を埋めることになるだろうから、結局リリーに主役取られちゃうじゃん。プレッシャーが辛いのは分かるけど、プロのプリマやるにはメンタル弱すぎでは…。
ただ母親との関係で元々プレッシャーに弱そうな描写はありました。背中引っ掻いたりしてたしね。ニナが自分の意思でバレニーナになったのかな…と思ったのもそういう状況から。自分で選んだ道ならプレッシャーへの覚悟はあるだろうし、こういう壊れ方はしなかったのではないかと思うので。ニナは母の夢の道具にされていたのでは…という気がします。母にバレニーナにさせられ、何故自分がバレエをやるのか、それも分からないままにプレッシャーに潰されていったのではないかと。
そういえばニナの前にプリマやってた人が「(自分には)中身は何もない」と言い、ニナに「nothing!」を連呼するシーンがありました。それはニナ自身のことを暗示していたのかも知れない。ニナは周りの期待に応えようとするだけで、そこには「自分」がなかった気がする。子どもには自分の意思を、中身を持たせてあげないといけない。自分の生きる道を自分で決められるように。親の人生でも誰の人生でもなく、自分の人生を生きられるように。そう思えた作品でした。