ファースト・マン

ファースト・マン BD

2018年
時間 141分
監督 デイミアン・チャゼル

空軍のテストパイロットだったニールは娘を亡くしてNASAのジェミニ計画への参加を決意。厳しい訓練や友人の悲劇に見舞われながらもアポロ11号でついに月に行き、月面に降り立つ。人類で初めて月に降り立ったニール・アームストロングの伝記映画。

1969年7月、世界中が固唾を吞んで見守る中継ニュースがあった。私もテレビ映像に見入っていた1人だった。アポロ11号の月面着陸である。人類が本当に月に行った! 当時子どもだった私には、それはもうすごい感動と興奮をもたらした。子どもゆえ、その裏に東西の冷戦があったことも、NASAの事情もアメリカの事情も、宇宙飛行士らの家族の気持ちも何も知らなかったが、その分ただただ純粋に人類の科学と夢に感動していた。これは当時の私が知らなかった裏側の話をニール・アームストロングのドラマという形で描いてくれた作品である。

内容はニールがジェミニ計画に参加してアポロ11号で月面着陸するところまでの8年間を描いてます。訓練の様子やジェミニ8号でのドッキング、アポロ計画、それだけでなくニールの家庭での姿、家族との出来事なども。エンターテイメントではなく伝記なので、宇宙が舞台になっていても、SF系によくあるような派手な演出やアクションはありません。主軸は人間ドラマで、妻のジャネットの心情もよく描かれてました。

史実に沿っているので、成功話だけではなく、仲間の事故やアポロ1号の悲劇も入ってきます。夫が命をかける仕事なら妻はどうすればいいか──。ニール一家はヒューストンに引っ越して同僚のエド・ホワイトの一家とお隣さんになる。ジャネットはエドの妻パットと仲良くなり、子どもたちも同じ年頃なので家族ぐるみでお付き合いする仲になります。両家の対比を通して妻側の気持ちも伝わってきて考えさせられる。

月面着陸の様子はこれまでにない視点から描かれていて、月ってこういうところなんだーというのを改めて感じました。ニール目線で進んでいくので、私もニールと一緒に月に降り立ったような気分になれました。

<ネタバレ>

伝記なのでネタバレも何もないとは思うけど、以下のことは今作オリジナルの演出かもしれないので、一応(^^;。ニールは人前では何でもないように振る舞っていたけど、娘のカレンを亡くした悲しみは実は相当なものだったようす。ジャネットによれば口にすら出来ないくらいだったらしい。カレンに月の歌を歌っていたニールは作中何回も月を見上げます。いったん断ったジェミニ計画に応募したのも娘のことが気持ちの底にあったから?

カレンの腕輪を大切に持ち続けていたニールは、月に行った時、カレンの腕輪をクレーターの中に入れる。カレンを月に連れていってあげたのね。無事帰還したニールは面会に来たジャネットとガラス越しに手を合わせる。この時ニールはこれでやっと本当に悲しみを乗り越えることが出来たのかなと思いました。

宇宙飛行士のミッションを描くだけでなく、家族との絆もしっかり描いてくれたおかげで、厚みのある伝記になっていたと思います。「英雄アームストロング」を1人の人間として見られたのはよかった。無理にドラマチックにしなくても、むしろ淡々とした描写だからこそリアルに心に来る、ということはありますよね。