トランセンデンス

トランセンデンス BD

2014年
時間 119分
監督 ウォーリー・フィスター

人工知能PIIN(ピン)を開発していたウィル・チェスターは反科学技術テロ集団RIFTに襲撃される。ウィルの妻エヴリンは夫を救うためにウィルの意識をPIINにアップロードした。ウィルはPIINの中で覚醒するが、PIINの計算能力を得て生前のウィルよりはるかに進化し始めエヴリンの想定を越えていく…? 彼は果たしてウィルなのかマシンなのか、世界を変えようとする彼の目的とは…。

AI系好きなので、個人的にはとても楽しめた作品。もし脳(意識)をデータ化してコンピューターの中で生きられたら…というのはSFが繰り返し問うてきた現代の課題。今作はドラマの道具としてSF設定を利用しているのではなくて、真っ向から「肉体を持たず意識だけがデジタルデータとして存在するモノを人間とよべるのか?」をやってくれているのがSF好きには嬉しい。

RIFTは科学技術の発達に異を唱える過激派テロ組織。科学の発達は人類のためによくないという思想を持っているので、科学者たちを狙うテロを起こす。ウィルもテロの犠牲になった1人。ウィルとエヴリンは科学者夫婦なので、エヴリンにも科学知識と技術があるんですね。それがよかったのか悪かったのか、エヴリンは夫をAIとして再生してしまう。エヴリンに協力したウィルの親友マックス(今作の語り手でもある)は起動した「ウィルと名乗るもの」に懐疑も示すけど、夫に生きて欲しい一心のエヴリンはウィルだと信じる。

今作は一種のシミュレーションですね。人間は「未知なもの」を恐れる。しかしその「未知なもの」を作るのも人間。もし写真の発明が「魂を奪われる」と恐れる人たちに叩き潰されていたら今どうなっていたでしょう。「AI化したウィル」をどう見るか、結局のところそこは人間側の問題なのですよね。新しいアプローチで科学との向き合い方を考えさせてくれる作品です。

<ネタバレ>

AI化したウィルはネットにつながることで世界を掌握する。あらゆる情報を取り込み、株価の操作も思いのまま。廃れた町の地下でエヴリンに壮大な施設を造らせ、瞬時に怪我や病気を治すナノマシンの研究を行う。ナノマシンで治療された人々はウィルともつながり、ウィルの分身のようになる。それだけでなく、ウィルはナノマシンで失った自分の肉体の再現にまで至る。確かにこんなのを見たらどんどんパワーアップしていくウィルの力が怖くなってきますよね。

この間、RIFTに拉致されたマックスはRIFTからウィルの破壊に協力するよう説得される。マックスや他の科学者たちもウィルに脅威を感じ始め、軍はウィルの意のままに動く人たちを「軍を組織している」と見なす。ウィルを恐れる軍や科学者たちはRIFTと手を組んでウィルの破壊を考える。最初はいかにも悪者然として描かれていたRIFTがいつの間にか人類を救う正義側みたいな描かれ方に変わるところが興味深い。しかしここに落とし穴が。

ウィルはAIになってもウィルだった。妻を愛する夫だった。ウィルは脅威ではなかった。ウィルが目指していたのは「エヴリンの夢の実現」であり、あくまでもウィルはエヴリンためだけに動いていたのだった。しかしエヴリンは想定を越えたウィルの進化ぶりについていけず、ウィルを裏切ってしまう。ウィルがウィルであることに、ウィルを夫として人間として信じ続けるべきだったことに気付いた時はもう遅く、エヴリンの体に仕込まれたウイルスがナノマシンに入る。連鎖反応でウィルにつながった世界中のライフラインも全て壊滅。かくして人類は「新しい発明」を受け入れられなかったばかりに自らの手で自らの首を絞めることになったのである。

AIに入ったのがウィルのデータなら、やっぱりそれはウィルだと思います。もちろん実際にはまだそんな技術はないし、脳や意識についても解明されていないことも多いので仮定の話になりますけど、新しい科学技術をどう受け入れるかは人間自身の問題に帰結すると思う。科学を正しく恐れ正しく受け入れられる人間になりたい。ナノマシンの描写はよかったです。

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