LOOPER/ルーパー

LOOPER/ルーパー BD

2012年
時間 119分
監督 ライアン・ジョンソン

時は2044年。30年後にタイムマシンが発明されるが、過去への影響の懸念から時間移動は法で禁止された。だが犯罪組織がタイムマシンを悪用し、消したい人物を30年前(2044年)に送り、ルーパーと呼ばれる殺し屋に始末させていた。ジョーもルーパーの1人だったが、ある時未来から送られたターゲットは30年後の自分自身だった。30年後の自分に逃げられたジョーは未来の自分を追う。自分VS自分の戦いの決着は如何に!?

これ、アイデアは面白いです。2044年の30年後というと2074年ですが、その頃にはナノテクノロジーが発達して体内に埋め込まれたナノマシンのせいで殺人が不可能になっているという設定(この辺の詳細はパンフレットの説明より)。だから犯罪組織は消したい人間をナノマシンの情報を送れない過去に送ってそこで始末するという方法を考え出した。これだと2074年ではターゲットは行方不明になるだけで証拠も残らない。ターゲットも30年前に送られた瞬間に始末されれば過去への干渉も生じないのでタイムパラドックスも大丈夫!? ただし予定通りいけば、ですがね…。

予定通りいくように、ルーパーには特殊な掟が課せられてます。ターゲットは絶対に逃がしてはならない、必ず始末しなければならない。ルーパーをやめたくなったら大金と引き換えに未来の自分を殺して残された30年の余生を好きに生きる(これをループを閉じると言う)。しかし予定通りにいくとは限らないわけで、やっぱり綻びは生じちゃうわけで…。

ジョーは逃がしてしまった未来の自分を追いますが、未来の自分にも大人しく殺されるわけにはいかない理由があった。30年後のジョーに何が!? 未来のジョーは30年歳とってる代わりに経験も30年分積んでるから、若いジョーは易々とかわされてしまう。そうこうしているうちに明らかになってくる未来の犯罪組織のボス「レインメーカー」の正体とは…。

舞台が2044年の割にはSFらしい描写はほとんどなし。バイクがちょっと浮く程度ですかね。自分VS自分のアクションがメインで、SFはそれをやるための道具かなあという感じです。けど、タイムトラベルものとしては異色の発想で挑んできた作品なので、SF好きには自分のタイム理論と付き合わせながら色々突っ込んで楽しめる!?ところはあります。ジョーのラストの決意はあれでよかったのか…?についてはネタバレで。

<ネタバレ>

今作のタイムルールは平行世界ではなくて同じ時間軸でのタイムトラベルですね。だから過去の出来事が未来に影響を及ぼす。途中未来ジョーの回想が混じるので分かり難いところもありますが、未来から送られた「縛られた自分」を始末してループを閉じたのが最初のループ(未来の自分を殺すのは未来ジョーの記憶)。ところが未来ジョーは殺された妻のために自分の本来の過去から逸脱をはかる。つまり大人しく殺されるのをやめる。それが若いジョーが目撃して逃げられた「縛られていない自分」です。

この時、「ジョーが自分を始末した過去」が「ジョーが自分を始末できなかった過去」に書き換わる。未来ジョーが若いジョーのやることが自分の記憶になると言うのは、書き換わった新たな過去が未来ジョーの記憶も塗り替えていくということですね。ただこの時点では歴史の書き換えは若いジョーの体験中の範囲に留まり、もっと先の未来(妻を得る)にまではまだ及んでいない様子(及びそうになるところもありますが…)。

未来ジョーの目的は妻を助けるために組織のボスの「レインメーカー」を葬ることだった。レインメーカーは2044年時点ではまだ10歳の子ども。未来ジョーは条件に合う子どもを絞り込み、彼らを亡き者にして未来を変えようとする。そのレインメーカー候補の1人が農場で子育てしてるサラの息子シドだった。ここで映画冒頭の伏線が発動。TK(超能力者)の存在ってこの話に必要?と思ってたけど、こーゆーことだったのか。ちょっと無理矢理な感もあるけど、シドは強いTK能力者だったから犯罪集団も牛耳れたってことね。

しかしシドはサラの愛があれば正しく育つ(犯罪者にならない)可能性が示される。シドと交流した若いジョーはシドを庇うサラを撃とうとする未来ジョーを阻止するために自らの命を絶つ選択をする。今作のルールは同じ時間軸だから、ジョーが死んだらジョーの未来も消え、未来ジョーも消えるわけです。サラは助かり、シドも愛を失わずに済み、犯罪組織のボスになる未来は回避された…ように見える。

ジョーは未来を変えられたのか?

正直、これはちょっと微妙なところだなあ…と思います。最初のループでは未来ジョーは大人しく始末されており、シドの未来に介入していません。つまり未来ジョーはいなくてもシドはレインメーカーになってるんですよね。シドがレインメーカーになる要因はサラの愛を失うことなので、サラが別の理由で死んだ場合でもシドはレインメーカーになり得る。本来2044年にはいなかった未来ジョーを阻止したところで、あの後また別の運命がサラとシドを待っていないとは限らない。

ただ、サラとシドのためにジョーが死んだこと、ジョーと交流したシドがジョーを知らなかったシドとは少し違ってくるだろうこと、些細なことでもシドとサラの運命を変えることにつながらないとも言えません。私としては自分のためだけに生きてきたジョーが他人のために命をかけられるようになった、その行いと願いが報われる未来を祈りたいです。