タイムマシン(2002年版)

タイムマシン 特別版 DVD

2002年
時間 96分
監督 サイモン・ウェルズ

物理工学教授のアレクサンダーは恋人のエマに結婚を申し込もうとしていた。だがエマは強盗に殺されてしまう。エマを取り戻したい一心でアレクサンダーはタイムマシンを作るが、過去に戻ってもエマを死の運命から救うことが出来ない? 何故過去が変えられないのか、その答を求めて未来へ飛んだアレクサンダーを待ち受けていたものは…!?

数年前にBSで見たのが初鑑賞。H.G.ウェルズの「タイムマシン」が原作ですが、小説発表当時と映画が制作された2002年では社会状況が大きく変わったため、かなり大胆な変更がなされています。おかげで今の時代でも見られる内容になってる。80万年後の未来で人類がエロイ族とモーロック族の2種類に分かれているところは原作と同じですが、2つに別れた理由は今作オリジナル設定。そのため原作が提起した当時の社会問題はテーマではなくなっていますが、その代わりタイムパラドックスに正面から向き合うことでタイムトラベルSFとしてよく出来た作品になっています。

舞台が1890年代なので、当時の風俗や風景もよく再現されていて楽しい。タイムマシンの造形も面白くて、1890年センスも取り入れながら洗練させた感じで、レトロなのに未来的でロマンを感じるデザインです。これがぐるんぐるんと回りながら周りの時間が超スピードで過ぎていく描写もなかなか見応えあります。一気に80万年後に飛ぶわけではなく途中下車(って言い方でいいのかな?)もするので、2002年当時に考えられた未来世界も垣間見ることが出来て面白いです。

さて今作オリジナルの設定、恋人の死ですが…。アレクサンダーは4年かけてタイムマシンを完成させ、恋人を救うために過去に戻る。しかし強盗から救っても別の形で彼女は死んでしまう。1000回救えば1000通りの死に方をする…? 何故なのか? 果たしてその答は未来にあるのか…。原作に出て来るエロイとモーロックは今作にはどう絡むのか? 原作とは違うところがあってもタイムものとして好きな作品です。

<ネタバレ>

アレクサンダーが過去を変えられない理由を求めて、最初に立ち寄ったのが2030年のニューヨーク公立図書館。そこには透過ディスプレイに男の姿で現れる案内AIがいて、彼がなかなかユニークなキャラ。その頃には月に植民地が出来てますが、実際にはどうだろうなあ…。しかしその7年後に月植民地が失敗して月が崩壊、その衝撃でタイムマシンも80万年後に飛んでしまう。月崩壊の影響は地球にも及び、未来は荒廃。生き残った人々は地下に潜り、そこから人類が色々な種に分かれ、モーロックとエロイもそうして生まれたという設定でした。

モーロックを支配する人間に出会い(脳が発達した知力担当要員)、アレクサンダーはやっと答を見つける。だがその答は「エマの死によってタイムマシンは作られた。よってタイムマシンがある限り彼女は救えない(矛盾が生じるから)」というものだった。エマが死ななかったらアレクサンダーはタイムマシンを作っていない。タイムマシンが存在するためにはエマが死なないといけないから。これにはなるほど!と思いました。

エマを救えないと分かったアレクサンダーはモーロックに捕まったマーラを助けるためにタイムマシンを暴走させる。タイムマシンは壊れてしまい、アレクサンダーはもう自分の時代へは戻れなくなった。だがそれはアレクサンダーがタイムマシンの呪縛から解き放たれ、エマの死を受け容れ、新しい未来に目を向けられるようになったことも意味した。過去や未来に囚われることからの解放──これが今作のテーマでしょう。

1890年代では友人のフィルビーが帰って来ないアレクサンダーを「自分の居場所」を見つけたのだと解釈する。いい友人だよね、フィルビー。ウォチット夫人にも心配りしてくれたし。ラストでフィルビーがアレクサンダーの意を汲んで山高帽を脱ぎ捨てるのがいいです。