ソウル・ステーション / パンデミック
年 | 2017年(日本公開年) |
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時間 | 92分 |
監督 | ヨン・サンホ |
ソウル駅のホームレス老人が何かに噛まれたような怪我をしたが、誰も助けてくれない。貧困層の女性ヘスンは同居男キウンとケンカして飛び出してしまうが、その間にソウル駅周辺で人々の様子がおかしくなってくる。キウンはヘスンを探しに行くが、ゾンビと化した人々に阻まれて、なかなか2人は出会えない。次々と襲ってくるゾンビから逃げて2人は無事再会できるのか──?
「新感染 ファイナル・エクスプレス」の前日譚に当たるアニメ作品です。ザ・シネマで流してくれたので見てみました。アニメと言っても作風は大人向け。「新感染」の前夜、ソウル駅周辺で何が起こっていたかを描いているのですが、登場人物は「新感染」とは違っており、内容も別物。単体で見られる独立した物語になっているので、「新感染」の後で見ても大丈夫です。話はヘスンとホームレスたちのドラマが主体で、ゾンビが発生した理由については今作でも触れられていませんが、彼らのドラマがけっこう胸にズンと来る。
アニメでゾンビを見るのもなかなか面白いですね。日本のアニメばかり見慣れているとキャラデザインも新鮮に感じる。真面目な作風なので絵柄もリアル系ですが、ゾンビの見た目はそんなにグロくはないです。見た目より走り回って襲ってくるスピード感で怖さを出してる感じ。街中を逃げ回るのですが、ビルに上ったり下りたり、立体的な移動もけっこうあってアクションぽい動きも楽しめたり。
でも今作で印象的だったのは、ゾンビよりもヘスンたちの境遇。「新感染」では人間の駄目さが印象的でしたが、今作ではホームレスと貧困層にスポットを当てて、ゾンビパニックの形を借りて彼らの叫びを表現したかのような。社会の底辺にいるヘスンはとても弱い存在。ヘスンの弱さに見ていてやきもきすることもあるかもしれないけど、そこに今作の思いが入っているような気がします。
<ネタバレ>
風俗店から逃げ出してキウンと暮らしているヘスンだけど、部屋代も払えないほど困窮している。キウンはヘスンに体を売らせようとするヒモ男で仕事もない。そこへヘスンの父と名乗る男がやってくる。場面のつながり具合と娘を必死に探してるふうな男の様子に見事に騙されてしまいましたわー。私も終盤までお父さんだと思ってたので、ゾンビの襲撃をくぐり抜けて、ヘスン、キウン、男の3人がやっと出会えた時、感動の再会になると思いきや、ヘスンが「父じゃない」と言った時の衝撃~~。
男の正体はヘスンが逃げ出した風俗店の店長でした。店長は店の金を持って逃げたヘスンを探していたのですね。確かに「娘を探している」のも探すのに必死だったのも本当ではあったので、そりゃキウンだって疑わなかっただろう…。男が店長だと分かってキウンは果敢にも立ち向かうが、かなわない。キウンよりもっと弱いヘスンにはもう為す術もない。
この時、彼らの舞台になったのが富裕層向けの超高級マンションのモデルルームでした。ゾンビから必至に逃げてたまたま逃げ込んだ部屋の豪華さに驚くヘスン。そこにはヘスンには想像もつかない高額の家具がいくつも展示してあった。ヘスンには一生かかっても縁がないだろう世界。風俗店の店長でも雲の上の世界だろう。社会の底辺にいる3人と富の象徴である超高級マンションが実に強烈な対比になっていて、これ以上ない皮肉となって迫ってくる。
逃げて逃げてそれでも最後はゾンビになってしまうヘスンが哀れ。ヘスンはゾンビにならなければ自分を搾取する者への仕返しも出来ない弱い存在でした。救いのない終わり方だったけど、ゾンビ化したヘスンに風俗店の店長が襲われるシーンは小気味よかった。社会と貧困層の抱える問題を改めて意識させてくれる作品でした。