アバター

アバター BD

2009年
時間 162分
監督 ジェームズ・キャメロン

22世紀、人類は惑星パンドラで燃料危機解決につながる鉱石を採掘しようとしていた。採掘を妨げる先住民ナヴィと交渉するためにナヴィの姿で彼らと接触するアバター計画が始まり、元海兵隊のジェイクは双子の兄の急死でアバター計画に参加することになる。ナヴィの娘と接触したジェイクは彼らの信用を得るよう努力するが、ナヴィの生活に溶け込むうちにしだいに人類の行いに疑問を持つようになる。

3Dで話題になった作品ですが、この作品で本当に評価すべきはそこじゃない! 映像の素晴らしさは2Dでも十分に伝わるし、何より内容が面白いのです(最初2Dで見て大感動して後から3Dで見直した私が断言する)。兎にも角にも、まずは2Dでも十二分に堪能できる映像の美しさと迫力。パンドラ特有?の蛍光色で彩られた動植物たち、青い肌のナヴィ、神秘的な魂の木、空に浮く島々、どれもが存在感たっぷりに地球とは違う景色を見せてくれて、まるで今自分がパンドラの大地に立っているような気にさせてくれる。それこそが日常とは違う世界に浸らせてくれる映画の醍醐味! 2時間42分、存分に惑星パンドラへの旅を楽しみましょう。

内容で面白いと思ったのは、まずは人類の立ち位置をSFにありがちな侵略される側から、侵略する側にしてみたという発想。地球側の代表格がクオリッチ大佐ですが、彼は完全に地球側目線でナヴィのことは原住民と見下しており、鉱石採掘の邪魔になる敵という認識。彼にとってはそれが正義なわけです。自分の正義に忠実な軍人なので、己の信念にも疑いを抱かない。それが彼の視野を狭めている。

価値の逆転を描いているのも面白い。青い肌のナヴィは最初は私たちの感覚に馴染まない。正直気持ち悪いと思う。しかしジェイクがナヴィのアバターを使って彼らと生活を共にする姿を見ているうちにだんだん目に馴染んできて、いつのまにかナヴィが人間より人間らしく見えてきて、いつしか感情移入するようになり、そうなると…? 映画を見ているうちに自分の中で逆転劇が起こる。これはとても面白い体験。

さらにSF設定の部分でも新しい発想があり、これにもワクワクさせられました。ナヴィの生活と密接につながるエイワ信仰には実はとても興味深い裏付けが用意されている。それを研究しているのがグレイス・オーガスティン博士。今作ではその部分はまだチラリとしか明かされてませんが、続編ではより詳しく描かれるのではないかと期待しています。

<ネタバレ>

海兵隊時代の負傷で下半身不随になっていたジェイクはアバターで自由自在に走り回れるようになって喜ぶ。だがアバターとのリンクが終わると現実の歩けない自分に戻る。ジェイクにとってネイティリと過ごす時間は夢なのか現実なのか。ナヴィの生活を学ぶうちにネイティリを愛するようになってしまい、だんだん自分は人間なのか、ナヴィなのか分からなくなるジェイク。

今作には地球は登場しないが、ジェイクによると地球にはもう緑がないと言う。地球は環境破壊の行き着くところまで行ってしまったのだろうか。そして地球にはない緑がパンドラにはある。緑と調和する文化がある。ジェイクの歩けない足は緑を失った地球を象徴しているようにも思える。だからジェイクの心は緑のあるパンドラに向いたのかもしれない。パンドラの緑は人間に壊させない、地球のようにはさせない、と。だからジェイクはパンドラを選んだのではないか、ナヴィを選んだのではないか。

見てる側もだんだんナヴィに感情移入するようになって、いつの間にか人間の方が身勝手な侵略エイリアンに見えてきて、ナヴィ頑張れエイリアンに負けるな頑張れ!になってしまう逆転劇が起こる。価値が逆転すると、人間たちのやっていることがいかに愚かなことかよく分かるようになる。ジェイクやグレイス、トルーディ、アバター計画の科学者たちにはそれが分かるが、クオリッチには分からない。彼にはナヴィもパンドラも"見えていない"から。そこに今作のテーマがある。

植物が神系ネットワークを構築しているのは面白いですね。パンドラの生物たちはネットワークを通してつながることが出来る。パンドラの動物に乗る時、神系接続するのも面白いです。どんな感覚なんだろう、あんな風に一体化するって。魂の木にはパンドラの生物たちの記憶が保管されているようですが、グレイスのデータもそこに収まったようです。魂の木は巨大な記憶バンクでもあり意識データの転送も行えるようです。これにてジェイクは真にナヴィとして生まれ変わることに。

エイリアン(地球人)が去って平穏が戻ったパンドラ。あっという間の2時間42分、もっともっと体験したかったパンドラ。1つの惑星をこんなに魅力的に楽しませてくれた作品も珍しいと思います。