ゼロ・グラビティ(原題:GRAVITY)

ゼロ・グラビティ BD

2013年
時間 91分
監督 アルフォンソ・キュアロン

宇宙でのミッションに参加していたライアン・ストーン博士たちは衛星の破片に襲われる。猛スピードでぶつかってくる大量のスペースデブリにスペースシャトルは破壊され、ライアンとコマンダーのマット・コワルスキーだけが生き残った。2人は宇宙遊泳でISS(国際宇宙ステーション)を目指し、地球への帰還を目指すのだが…。無重力で繰り広げられる生と死の宇宙サバイバル。

これは映画館の大画面、それも3Dで見るべき案件。小さな画面ではこの映画の魅力は伝わりません。家で見るなら出来るだけ大きな画面で、プロジェクターや3Dが可能なら是非その環境で! この作品は宇宙空間と無重力描写が素晴らしい。画面に入り込んで宇宙の素晴らしさと怖さを体感する映画。もの凄いスピードで襲ってくるスペースデブリ(宇宙のゴミ=今作では衛星の破片)の恐怖はこれまでの映画では見たことのない未知の映像体験。映画と言うよりはもうアトラクションと言っていいレベル。この映像体験だけでも映画館代払う価値あります。

ストーリーはシンプル。登場人物は基本2人だけ。デブリ衝突事故でライアンたちのスペースシャトルが破損、シャトルでは地球に帰れなくなった。宇宙空間に放り出された人間が困難を乗り越えて生きて地球に辿り着くまでの宇宙サバイバル。作風は真面目でリアルです。舞台は宇宙ですが、正直これをSFと呼んでいいのか。今作で描かれるのは空想の未来の宇宙ではなく現実の宇宙、ISSが存在する現代の宇宙である。宇宙ゴミも現実問題だし、これはもうSFではなくて現代ドラマの範疇でもいいのではないか。改めて宇宙は既に人間の生活圏内なのだなと実感させてくれた作品でもありました。

ところで。未知の宇宙体験をさせてくれる素晴らしい今作ですが、1つだけ問題点が。それは邦題です。邦題は「ゼロ・グラビティ(無重力)」ですが、原題は「GRAVITY(重力)」。意味が正反対なんですよ! 邦題では無重力を描くのが目的の作品かと誤解されてしまう。逆なんです。今作が描こうとしていたのは重力です。重力(の持つ重さと意味)を描くために、その対比として無重力の描写に力を入れていたのです。「無重力シーンを描いた作品」と思って見るのと、「無重力の宇宙が舞台なのにタイトルが『重力』なのは何故だろう?」と思って見るのとでは見方が全然違ってくるじゃないですか。そこに今作の真意があるのです。

<ネタバレ>

研究者として宇宙ミッションに参加していたライアンですが、マットとの会話を聞くと、娘を亡くして自分が生き続けることや地球に対してもあまり未練がないような感じです。かと言って死にたいわけでもなく、惰性でただ生きてるような状態。目的もなく車に乗って走り続けるのはライアンの精神状態そのものだったのかも。ライアンの時間は娘が死んだ時から止まっているように感じた。

そこに事故です。あんなことがあったら、そりゃ怖いだろう。本能的に助かろうとするはず。ライアンには冷静なマット(冷静なだけでなくユーモアも持ってる)はとても頼れる存在だったろう。そのマットが宇宙に消えてしまった。マットの残した指示で1人でISSに入りソユーズで中国のステーション天宮を目指そうとするも、絶望的な状況に死を受け入れようと酸素を切る。だがそれはライアンの本意だったろうか…。

マットがソユーズに入り込んで来た時は私も一瞬マット生きててよかった!と思ったけど、すぐライアンの夢だったことが判明。窮地を切り抜けるアイデアを提供し生きることを説いた幻のマットは、ライアンの中に潜んでいた「生への思い」だったのではないだろうか。ライアンは本当はやっぱり生きたかったのだと思う。極限状態がライアンにそれを気付かせた。

あとは怒濤の展開です。マットに娘を託したのは、ライアンが娘の死を受け入れてそこから先へ進もうと自分を再始動させたことを意味してると思う。ソユーズで天宮に辿り着き、天宮の神舟に乗り込み、一路地球を目指す。着水した神舟から水の中をくぐり大地に立とうとした時、ずっしりと重力がライアンを捉える。頼もしく力強い重力が地球に帰ってきたよとライアンを包み込む。

重力。地球にいると重力なんて意識しない。あるのが当たり前すぎるから。無重力の宇宙に出て初めて重力の重み(まさに重みです)を知ることが出来る。それがラストシーンでずしんとくる。それこそが今作が見せたかったもの。これは生物を支えてくれる重力の存在に改めて気付くための作品だったのである。だからタイトルは「重力」なのです。

ところが、これを「無重力を描いた作品なんだ」という先入観で見てしまうとラストの意味が分からなくなってしまう。これでは作品の真意が伝わらない。邦題をつける時はもうちょっと考えていただきたいです。

こんな形で重力を描いてくれた作品も珍しいと思う。この広い大宇宙の中で生物を育んでくれた地球の奇跡に感謝したくなります。

関連する記事

サンシャイン2057

映画 2023/02/20

アド・アストラ

映画 2019/09/29

インターステラー

映画 2020/08/27

オデッセイ

映画 2020/08/31

パッセンジャー

映画 2019/10/24

月に囚われた男

映画 2020/04/30