アド・アストラ

アド・アストラ BD

2019年
時間 123分
監督 ジェームス・グレイ

人類が月や火星に基地を築くようになった時代。宇宙飛行士のロイは、子どもの時に宇宙で行方不明になった父が生きているらしいとの知らせを受ける。しかも今地球に災害をもたらしている巨大サージ(電気嵐)は父のせいらしい? ロイはサージを止めるために父を探すミッションを課せられる。月から火星、さらに海王星を目指して父の謎を解きに行くロイだが…。

「アド・アストラ」見てきました。宇宙ものと聞いて「インターステラー」や「ゼロ・グラビティ」みたいなのを期待していたら、ちょっと違った。確かに舞台は宇宙で、月→火星→海王星と太陽系の果てまでカバーしてはいるのですが、その中身は実質主人公の心の旅。主人公ロイは人との関わりが苦手なので、ほとんどロイの独り言で淡々と話が進んでいく。それを意識してか、人物のカメラワークも単調で、顔のアップばかりが並んでいた印象。宇宙空間でのカメラワークも大人しめで、それもロイの心理の方に焦点を当てていたからでしょうかね。

それでも冒頭の国際宇宙アンテナは斬新でよかった。月面カーチェイスも、これまでありそうでなかったものを見せてくれてよかった。世界観は現実の延長線上という感じで、今の技術の延長で月や火星に基地が作られたら…という考え方は悪くはなかったです。NASAにリサーチし、現実的な描写を心がけているのでエンタメSFにありがちな突飛なガジェットは出てきません。それはいいのですが、月が観光地化している割には一般客を運ぶのに切り離し式の打ち上げロケットなのには「え?」と思った…。一応近未来なんだからその辺はもうちょっと想像力を働かせてくれてもよかったような…。

ロイの父は地球外知的生命体の探索をしていたが、ロイが子どもの時に行方不明になったという設定。ロイは父への憧れと父に置いて行かれたという思いを抱えながら育った。今作のミッションは父を見つけてサージを止めること。父への複雑な思いを抱きながら月へ、そして火星へ向かうロイだが…。

<ネタバレ>

ロイは火星の基地から父がいるらしい海王星に向けてメッセージを送り、父と連絡を取ろうとするが反応は返ってこない。ついにロイは用意された原稿ではなく自分の言葉で呼びかけてしまい、ミッションから外されて地球へ帰されることになってしまった。しかし火星基地の責任者ヘレンから軍の真意を聞いたロイは、軍の命令に背いて海王星へ行くケフェウス号に無理矢理乗り込む。が、彼が乗り込んだせいでロイだけ残してクルー全員死亡…って、ちょ、待て、脚本!!

おかげでロイは海王星までの何十日間を宇宙一人ぼっちで過ごすことになるのですが、何もこんな展開にせんでも…。このせいでちょっと後味が悪くて、ロイが1人でサージを止めてもモヤモヤが残りました…。父も生きてたけど自分の研究しか見えてない人で、ロイと一緒に地球へ帰ろうとはしなかった。尊敬していた父の本当の姿を見て、自分も父のようになりかけていることに気付いたロイはこれまで囚われていた父の呪縛を切り離し、これからは人との関わりを大切にしようと思うようになる。それはいいのだけど、ロイのせいで(脚本のせいかもしれんけど)全滅したケフェウス号の皆さんのことも忘れないであげてね?ね??

宇宙が舞台だけど中身は「主人公が父から卒業する話」でした。そっちに主軸を置いたせいか、宇宙描写方面には特に目新しいものは見当たらなかった。せっかく宇宙が舞台なのだから地球とは違う宇宙ならではの描写がもっと見たかった…と思うのは、こういう作品では野暮なんでしょうかね。エンタメしなくていいから、月や火星の重力を忠実に再現してくれるだけでもよかったのに、難しかったのかな…。

なお、今作ではロイの父が自分の探求のためなら家族を捨てても仲間が死んでも意に介さない人間として描かれてます。ロイの父は自分の研究実験が地球に脅威をもたらすことを考えてない。パンフによると監督が「アメリカ南西部が90%破壊される可能性がありながら核実験を進めた話」を知り、とても恐ろしいことだと思い、そこからロイの父を考え出したそうです。研究実験にはそういう一面があり得ることをロイの父を通して表現してもいたのですね。

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