インターステラー

インターステラー BD

2014年
時間 169分
監督 クリストファー・ノーラン

近未来、異常気象で植物が枯れ始め、酸素の減少で人類は絶滅の危機に瀕していた。農場をやっていた元パイロットのクーパーは人類を救うためNASAのラザロ計画に参加することになる。人類が移住可能な惑星を探すためにクーパーたち4人はワームホールを抜けて未知の宇宙へと飛び出す。地球に残された時間が少ない中、相対性理論と重力の影響を受けるクーパーたちは人類を救うことが出来るのか──。

正面から本格ハードSFをやってくれたSF好きには嬉しい作品。テーマはずばり、重力と時間ですね。今作で一番興味を引かれて面白かったのが、重力と時間の関係。相対性理論で光の速度に近づくにつれ時間の進み方が遅くなるのはよく知られていますが、重力が強い場合も時間の進み方は遅くなるのですね。これにより宇宙にいるクーパーたちの時間と地球に残した娘との時間の乖離がどんどん大きくなっていく。そこにSFならではのロマンとドラマが生まれる。

ワームホールやブラックホールを映像できちんと描いてくれたのも嬉しいところ。難しい言葉も出て来ますが、こういう作品は新しい知識を得られて科学にワクワクさせてくれるのがいいのです。興味を持った言葉があったら後で自分で調べてみるのも一興。これを機に物理や科学への興味が増したらこんな楽しいことはない。科学への夢やロマンを見せてもらえるのがSFの醍醐味ですから。

今作では人類を救うのに2つのプランが出されます。
[Aプラン]
スペースコロニーに移住する。問題は巨大なスペースコロニーを宇宙に打ち上げるための重力コントロール法がまだ確立していないこと。
[Bプラン]
5000以上の受精卵を生存可能な惑星に入植させる。問題は種としての人類は救えるが、今地球にいる人たちは救えないこと。

ラザロ計画では10年前から宇宙探査を行っており、先に出発した探査艇からいくつか生存可能かもしれない惑星の候補が送られてきていた。クーパーたちの任務は候補惑星の確認。クーパーたちの手伝いをするAI搭載ロボットたちも独特で面白かったです。思いの外活躍してくれるし、ユーモアや正直度を%で設定できるのもいい。TARSなんてもうすっかりクーパーの相棒でしたね。

クーパーたちが訪れた惑星で個人的に一番面白かったのは、やっぱりミラーの惑星。ブラックホールに近いため、重力の影響で時間の進み方が遅い。ミラーの惑星の1時間は地球の7年に相当する。これ最高だ、この設定だけでも他にもたくさん物語が作れそうなくらいワクワク出来てしまう。クーパーたちもこの惑星独自の時間の進み方に悩まされることになります。

今作はSF方面だけでなく、クーパーと娘のマーフィーのドラマとしてもよく出来ているので、SFが苦手な人にも親子ドラマとして楽しめると思います。SF設定がよく生かされたドラマは普通のドラマでは出来ないドラマチックな展開を見せてくれるので、それも面白いところではないでしょうか。

野暮な不満点は科学考証が重力やブラックホール中心になっていたせいか、他の部分では詰めが甘く感じられるところもあったことかな。

<ネタバレ>

人類生存の可能性がある惑星は3つ。ミラーの惑星が一番近かったので、まずはそこから…という流れですが、1時間が地球の7年って距離は近くても時間かかりすぎでしょ? 地球にはもう残された時間がないと焦るのなら、距離ではなく実際にかかる時間で惑星の順番を決めればよかったのにと思ったのは私だけだろうか。案の定、予定通りの時間でミッションが行えるわけはなく、アクシデントに見舞われメンバーの1人を失い、着陸船がやっと母船のエンデュランス号に戻った時は23年が経過していた。時間を無駄にし過ぎですよ…。おかげで娘のマーフィーがクーパーと同い年に。

マン博士の惑星とエドマンズの惑星のどちらに行くかは確かに悩ましい問題でした。距離を取るか、可能性の高い方を取るか。ここでも距離を取ったことが失敗に。マン博士とは会えたものの、肝心のマン博士は孤独に心を壊されていた。マン博士の惑星に人類は住めなかった。しかもラザロ計画の本当の目的が明らかになり、クーパーたちは騙されていたことを知る。Aプランは重力を解明するデータが足りなかったため不可能だった。本命は最初からBプランだったのだ。Bプランだと種としての人類は救えるが、クーパーの娘は救えない。

マン博士の暴走でまたメンバーの1人が亡くなりエンデュランス号も被害を被り、残されたクーパーとアメリアも地球へ戻れなくなる。ここで一計。エンデュランス号はブラックホールの重力を利用してエドマンズの惑星へ向かうことにするが、クーパーは娘を助けるためにTARSと共にブラックホールの中に落ち、重力崩壊の特異点のデータを地球に送ることを試みる。

ここで5次元の世界が出てきます。3次元の世界しか知らない私たちには想像も出来ない世界だわ~。ここの映像表現が縦横斜めに並ぶ無数のマーフィーの部屋なのには3次元人の発想の限界も感じましたが、場の表現としての目的は達せられているのでなかなか考えたなとも思いました。ワームホールや5次元の部屋を作ってクーパーを導いたのが神の類ではなく未来の人類と言うのもいい。ここには人類はやがて次元も時間も越えることが出来るようになるかもしれないと言う未来の夢が描かれている。神に頼るのではなく、人間を救うのは人間自身でありたい。

クーパーがブラックホールで得たデータは5次元の部屋のおかげで時空を越えてマーフィーに届いた。マーフィーは方程式を解き、スペースコロニーで地上の人たちは救われる。クーパーがワームホールを抜け土星に出た時は更に51年経っていた。若いままのクーパーは歳とったマーフィーと再会を果たす。時間が隔てた父と娘に涙する。そしてクーパーはアメリアのいるエドマンズの惑星を目指すのだった。

壮大な物語でした。時間が隔てるドラマには切なさや哀しさもあるけどロマンもある。こういうお話、大好きです。

野暮な突っ込み

素敵なお話ではあったけど、真面目な作りゆえに逆に気になってしまうところもけっこうあり。重力方面の科学考察はしっかりやってるのに、人類が滅びそうな理由付けはかなり雑。植物の枯れ方も謎だし砂嵐もピンと来ない。「人類が宇宙へ行かねばならない」という前提を作るためだとは分かってますが、もう少し説得力が欲しかった気が。時間がないと言ってる割には23年経っても農場に変化はないしそんな切迫してる感じもないし。

Aプランの謎

これを突っ込んでしまうと作品の根幹に関わってしまうので、突っ込むべきじゃないんだろうけど、やっぱり気になる(^^;。スペースコロニーを丸ごと地上から打ち上げる必要あるの? 宇宙で建設すれば済むんじゃ…。土星へ行けるだけの技術はあるんだし、23年もあればコツコツ資材を運んでも出来そうな気がするけど。それにエンデュランス号はどうやって打ち上げたんですか。エンデュランス号を地上から打ち上げたのなら、重力の謎が解明されなくてもステーションや大型宇宙船を打ち上げられるってことになりませんか。エンデュランス号は宇宙で組み立てたのならコロニーも宇宙で建造できますよね?

エンデュランス号に行くまでは多段式ロケットで打ち上げなのに、エンデュランス号が保有してる着陸船は多段式打ち上げなしで惑星表面からフワッと浮き上がって宇宙まで行けてるのも謎。そんな技術があるのならロケット使わなくてもいくらでも地上との往復可能な気がするけど、エンデュランス号の着陸船を地球では使わない理由って何だったんでしょうか。地球から宇宙へ行くのと、宇宙へ出てからの乖離がけっこう大きい。

映画には珍しいハードSFを楽しませてくれた分、他の設定部分とのバランスが取れていたらもっと良かったのにと思います。それでもSF好きには貴重な作品。面白かったからこその突っ込みです。

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