ライフ・オブ・パイ / トラと漂流した227日
年 | 2012年 |
---|---|
時間 | 127分 |
監督 | アン・リー |
1人の小説家がパイ・パテルの話を聞きに訪れた。そこでパイが小説家に語ったのはトラと漂流したと言う世にも不思議な物語だった。パイの父は経営していた動物園をたたみ、家族と動物たちと共に船でカナダを目指すが太平洋で遭難。救命ボートに乗れたのはパイと4匹の動物だけ。その中にベンガルトラがいた。トラと対峙しながら漂流サバイバルを送ったパイが見たものとは──。
公開時は「トラと漂流」ばかりがクローズアップされていたので、単純にトラと漂流するサバイバルものだと思って見たら、実はすごく深い話だったのでびっくりしました。これはお勧めです。どんなふうに「深い」のかは是非映画を見てご自分の目で確かめて欲しいところ。気になる人はネタバレを見ずにここで引き返してレンタルへGo!
冒頭でパイの生い立ちや少年時代の話が出て来ますが、本名(ピシン)をパイに変えたいきさつとか、子ども時代のパイも面白い。一見些細なことでも実は無駄な描写はなく、父親とのやり取りや神様の話なども見終わった後で意味を持ってきます。なお、パイ一家がカナダへ行くために乗る船は日本の貨物船という設定。
メインの「トラと漂流」部分は期待通りのサバイバル。トラのヒゲ辺りにCG?と思うところもあるけど、とても自然でリアルなトラをたっぷり見せてくれます。相手はトラだから油断したら襲われる。パイがトラと共存するためにどんな工夫を凝らして漂流を続けるのかも見どころ。ちなみにトラの名前はリチャード・パーカー。動物園に入れる時、書類の記載ミスでこんな名前になっちゃったそうな。
映像がきれいなのも今作の見どころですね。嵐の描写もすごいけど、凪いだ海の表現は心象風景も兼ねているのかのように美しく、時にファンタジック。水の表現が特にきれいで、海だけでなくプールなどもこんな描写のやり方があったんだーと見入らせてくれる。さて、そんな漂流の果てにあったのものは──?
<ネタバレ>
ボートの備品などで浮島を作ってトラと距離を保ちつつ、サバイバル工夫で頑張りながら、トラがいてくれたから自分も頑張れたんだと気付く──みたいなところまでは普通に頑張れサバイバル!な気持ちで見てました。が、ミーアキャットのいる島へ流れ着いたところから何かおかしくなってくる。ミーアキャットが大量にいる不自然さもさながら、人の寝姿の形をした食人島が出てきて「え、ちょっと待って、これってホラ話だった!?」と気持ちがひっくり返されたところで明らかになる「もう一つの物語」。
パイの物語で登場したのは、シマウマ、ハイエナ、オランウータン、トラ。「もう一つの物語」で登場したのは、仏教徒の船員、コック、母、そしてパイ。「もう一つの物語」は凄惨だった。ハイエナがシマウマとオランウータンを殺したように、コックが船員と母を殺し、トラがハイエナを殺したように、パイがコックを殺した──。
さてどちらの話が本当だと思いますか? ここは見る人によって色々な解釈が出来ると思いますが、私はどちらの話も真実だったと思っています。パイの物語は極限状態におかれた主人公の心の目に映ったもの。だからそれはそれで本当のことだったのだと見なせる。トラはパイ自身。パイは漂流中、トラの姿をした自分の恐怖心と闘っていたのですよね。サバイバルとは自分との闘いでもあるから。これは悲惨で残酷な現実をパイの心の目で描いたお話。
パイは小説家に「これは神の話」と言う。信じるかどうかは聞き手の好みでいい。「トラと漂流した話」を信じなかった貨物船の保険調査員は「もう一つの話」を聞いて、「トラと漂流した話」の方を「真実」として採用してくれたようです。調査員、やるな(笑。サバイバルものかと思いきや、信心についての見事な寓話になっておりました。