マイノリティ・リポート
年 | 2002年 |
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時間 | 145分 |
監督 | スティーヴン・スピルバーグ |
2054年、アメリカでは予知能力者"プリコグ"を使った犯罪予防局のおかげで犯罪を未然に防ぐ社会を作り上げていた。ところがある日プリコグが「犯罪予防局のジョン・アンダートン刑事が殺人を犯す」と予知する。もちろんジョンは殺人などする気はないし被害者とされる男にも見覚えはない。これは何かの罠では?と考えたジョンは身の潔白を証明するために予防局を逃げ出して真相を解明しようとするのだが──。
原作はフィリップ・K・ディックですが、小説は未読なので映画のみでの感想になります。近未来のワシントンD.C.を舞台にした推理SFですが、SF設定部分が謎を解く鍵になるので、まずは犯罪予知システムの設定をよく理解しておくことが大事。このシステムはかなり独特で、プリコグと呼ばれる3人の予知能力者がこれから起きる犯罪と被害者・犯人を予知する。予防局の捜査班は予知映像を手がかりに犯行現場を特定し、犯行前に犯人を逮捕する。でもこれ、逮捕した時点ではまだ犯罪は行われてないし、未来の罪(実行されなかった罪)で逮捕されるのも、分かるような、分からないような…。けっこう謎システム(^^;。
それでもこの予知システムのおかげで6年間殺人事件を0件に出来たのは大きくて、近々全国にこのシステムを導入するための国民投票が行われることになった。それで犯罪予防システムが本当に完璧かどうか、司法局から調査が入るわけです。ところがプリコグの1人(一番能力の強い少女アガサ)がジョンにとってはあり得ない予知をする。まさか自分が殺人を犯すはずがない──予知は本当なのか、それとも予知システムに間違いが生じたのか、あるいは何かの罠なのか──? 予防局を逃げ出したジョンは今までの仲間に追われることになり、真実をかけた攻防戦が始まる!
近未来SFらしい描写や小物もいっぱいあって楽しませてくれます。スクリーンを手で操作するのは時代を先取りしたセンスだったのでは。スマホはないけど、網膜認証が取り入れられていて、どこへ行っても目で本人確認される。動画の見せ方とか、ビルの壁に沿って移動する車とか、動く植物とか、どこへでも入り込むスパイダーマシンとか、よくこれだけ詰め込んだなと思うくらい工夫とアイデアに溢れていて嬉しい。嘔吐棒は嫌ですが(笑。
<ネタバレ>
司法局の調査中にアガサがジョンに過去の事件の映像を見せたのが始まり。アガサはずっと訴えたかったんだろうね、母親(アン・ライブリー)の事件のことを。だがそれは調べられてはいけない映像だった。何故ならそれは、アンを殺害した真犯人が重複映像に見せかけて削除させた映像だったから。真犯人の大望は自分が手がけた犯罪予知システムを全国に広めること。そのためには隠蔽した犯罪が明るみになっては困る。そこで真犯人はアンの事件を調べて報告してきたジョンを殺人者に仕立て社会から抹殺しようと罠を仕掛ける。
補足:プリコグの予知映像は犯罪予防局に保存されてます。ただ、プリコグたちは同じ映像(エコーと呼ばれている)を見ることがあるので、重複した映像は削除されます。つまり、いったん予知されて防がれた事件は、予知映像とそっくり同じ形で殺人を行えばエコーと見なされて削除されてしまうのです。しかし予防局のデータベースから削除されてもプリコグの脳にはオリジナルの映像が残ってます。
ジョンはプリコグのシステムを作ったハイネマン博士に助言を求め、マイノリティ・リポート(予知における少数の違い)を探せと言われる。ジョンはアガサを連れ出して自分の予知映像のマイノリティ・リポートを探すが、それはなかった。その代わり、アンの事件の真相(局のデータベースから削除された本当の犯人が映っている映像)を得る。
アガサとの逃避行で予知された事件現場に到達してしまったジョンは罠にはまりかけるが、仕組まれた芝居だったことが分かり、すんでのところで思い留まる。しかし殺され役のクロウは殺されないと家族に金が入らないから殺してくれとジョンに訴え、もみ合いになって銃が発射されてしまい、予知の通りにクロウはジョンに撃たれて落下。…したように見えるのですが、この時向かいのビルからも何者かが銃を撃った描写が入るんですね。クロウが撃たれる時、まず窓ガラスに穴が開き、その後で撃たれてるので、クロウを撃った真の殺人犯は向かいのビルから狙撃した方かな。ジョンではなくて。結果としてジョンは真犯人の思惑通りに嵌められてしまったわけです。
だがジョンを追っていた司法局のウィットワーが現場捜査でジョンが陥れられた罠を見抜き、ジョンがアガサからダウンロードしたオリジナル映像からアン殺害事件の真犯人を突き止める。最初はジョンの敵かと思ったのにやるじゃないか、ウィットワー。しかし真犯人の方が一枚上手だったのが残念…。元妻の所に逃げ込んだジョンはクロウ殺害とウィットワー殺害の罪を着せられて捕まってしまうが、元妻がジョンから聞いたアンの事件で真犯人に気付く。真犯人さん、絵に描いたような分かりやすい「語るに落ちる」ミスでしたね。
予知による予防は可能か?
結局、真犯人はプリコグにジョン殺人事件を予知されたことで自滅し、システムも予知が外れたことで廃止となったのですが、このシステムでは早晩破綻するとは思いました…。システムの中心にいるのは予知能力者。たまたま予知能力を持ってしまっただけの人間なので、寿命などの限界があり、ずっと機能し続けられるものではないと思います。3人のうち1人が欠けただけでも機能しなくなるし、やっぱり無理があったと思う。プリコグたちの人権問題もありますしね。実際アガサたちはもう疲れていた。彼らは機械じゃない。アガサがジョンに訴えた時点で、もう破綻は始まっていたと思います。人間をこんな使い方するシステムに未来はないと思うし、やってはいけないと思う。人間に戻れたアガサたち、よかったね。これから自分の人生を取り戻してね。
起きなかった未来は罪に問えるか
これも今作の疑問に感じた部分。ラストで「殺人予定者」たちは解放されます。実際には殺人はしてないのだから逮捕するのも変な話。ジョンが踏みとどまれたように、予知の中には土壇場で踏みとどまれたケースもあったのではないか。もしプリコグ3人のうち2人が実行された未来を、1人が実行されなかった未来を見た場合、"殺人が実行されなかった予知"はマイノリティ・リポートとして破棄されたとしたら、踏みとどまれたかも知れない可能性も握り潰したことになる。例え1%でもいい方向へ行ける未来があるのなら、その可能性を無視したくないと思う。
子どもを失って別れたジョンとララが復縁して新しい子どもが宿る終わり方にホッとする。予知は可能性。未来は選べるよね。