吸血鬼ゴケミドロ
年 | 1968年 |
---|---|
時間 | 84分 |
監督 | 佐藤肇 |
大阪へ向かう飛行機が謎の光る物体に遭遇し、墜落不時着した。生き残った数人は救助を待つが、そこへ宇宙生物ゴケミドロの手が伸びる──。閉ざされた極限状態で1人また1人とゴケミドロの犠牲になる中、むき出しになった人間の本性が惨劇に更なる拍車をかける。生存者たちはゴケミドロから逃げて生き延びられるのか!?
子どもの時に見てトラウマになった映画の1つ。いかにも禍々しい真っ赤な空から始まり、飛行機にぶつかる血まみれの鳥で恐怖心を煽られ、アメーバのようなゴケミドロが人間に寄生するシーンでとどめを刺されました。特に寄生され役の方のお顔があまりにハマり過ぎで、その怖さは夢に出てくるほどでした(笑。特撮は1968年の邦画レベルですが、当時の子どもにはあれでも十二分に強烈だったのですよ。
CSで流してくれたので録画して再鑑賞する機会に恵まれたのですが、大人になってから見ても楽しめますね。極限状態の人間心理や、そこからあぶり出される本音・本性が繰り出すドラマもなかなか面白い。不時着時の生存メンバーは副操縦士、スチュワーデス、総理候補の政治家、兵器製造業者の夫婦、精神科医、宇宙生物学者、戦争未亡人、それに時限爆弾を持ち込んだ若者、ハイジャック犯がそれぞれの立場からドラマに絡み、さながら社会の縮図のよう。
戦争のシーンが度々挿入され、目先のことにとらわれて戦争なんかしてる場合じゃない、目の前の事実が見えてない、見ようとしない、そんなことでは今に地球全体が手遅れになるよ──と警鐘を鳴らしてくれてます。その手遅れの象徴として登場させたのがゴケミドロなのだろうと。子どもの時はそこまで考えずに単純にアメーバ宇宙人に侵略される映画だと思ってましたが、なかなか含みのある内容だったのだなあと見直しました。
<ネタバレ>
まずはハイジャック犯の額が縦にパックリ割れてゴケミドロがそこへ入っていくシーンですね! 今見ると人形だと丸わかりだけど、怖かったんだよおぉ~(笑。この役者さんのお顔が宇宙人ぽかったのも手伝って異様な雰囲気を醸し出してくれてました。この人が吸血鬼になって他のメンバーを次々に襲うのだけど、その合間に政治家と兵器業者の癒着とか、学者と政治家の対立とか、醜くて脆い人間模様も浮き彫りになるのが面白い。初めは善人だった人が極限状態の中でおかしくなっていく様子も印象的。中でもベトナム戦争未亡人の豹変ぶりは凄かったわ…。
結局、副操縦士とスチュワーデスの2人だけが生き延びて不時着現場から脱出できるのですが、やっと道路に辿り着いたと思ったら、人々は既にゴケミドロに侵略されて死滅状態だった。ゴケミドロの宇宙船は飛行機を墜落させたものだけではなく、同時多発的に世界中に飛来していたようです。政治家たちが不時着現場でゴケミドロとすったもんだしてる間に、世界中のあちこちで同じことが起きていたのでしょう。
ラストで大量の宇宙船が地球にやってきて地球が赤く染まるのが子ども心にもすごく怖かった。誰も助からない最悪のバッドエンド。そりゃトラウマにもなるわ…。でもバッドエンドだからこそ強く心に残るのだろう。今ならこの結末にも納得。
今見たら突っ込みどころや特撮のチャチさが目につくかも知れないけど、ベタで分かりやすい演技とバランスが取れているせいか、見てるうちに慣れてきて気にならなくなる。むしろこれぐらい素直に分かりやすいのもいいよねと思うのでした。