ANON アノン
年 | 2018年 |
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時間 | 100分 |
監督 | アンドリュー・ニコル |
近未来、人々の記憶が全て記録される監視社会。サル・フリーランドは一級刑事で人々の記録にアクセスする権利を持つ。だがある日"記録"のない女性とすれ違い、謎の殺人事件が起きる。被害者の記録は改竄されており、犯人が分からない。その後も似た殺人事件が相次ぎ、サルは問題のデータのない女性を疑うが…。視覚ハッキング攻撃を受けながらもサルが辿り着いた真相とは…。
個人的には好みの設定のSF。視覚ハッキングで目に映るものが本当かどうか分からなくなり犯人に操られそうになるところなど、攻殻機動隊を思わせて面白い。犯人は人々の記録を自在に書き換えられる凄腕ハッカーなので、記録に頼る警察は振り回されております。ただし演技は静かに淡々と進む感じで、アクション映画ではありません。じわじわ展開する心理ミステリーという趣きですかね。
難は設定説明がちょっと甘いところでしょうか。見るだけで記録にアクセス出来てるし、改竄も見るだけで(頭で考えるだけで?)出来ちゃう。こういう状況を作り出すには全ての人間が電脳化されてるとか、超高機能な端末をどこかに装着してるとか何らかの説明が要ると思うのですが、その辺は不明。赤ちゃんまでも記録を取れるってどうやって? この世界の絡繰りやルールが分からないのでハッキングの手口とかは推理できない。視覚をハッキングしましたよと言われれば、そうなんですかと見てるしかないので、もう少し視聴者にも考えて楽しめる余地があったらよかったのですが。
今作で描かれるのは究極の情報社会とそれによる監視社会。自分の行動全てが記録され監視されプライバシーなどない社会は確かに息苦しいだろう。事件の被害者は皆、都合の悪い記録を消した(改竄した)人間ばかりだった。誰か違法に「記録改竄」を請け負っている人物がいる──そいつが犯人なのか? サルは自らおとりになって容疑者をおびき出す作戦を立てるのですが…。
<ネタバレ>
株式ブローカーになりすましたサルは裏掲示板で「都合の悪い記録を消したい」と依頼をかける。ついに引っかかったのはやっぱりサルが見かけた"記録のない女性"だった。被害者たちの記録を改竄していたのも彼女だった。しかしアノン(匿名)と名乗る女性の方が上手で捕まえることは出来なかった。そこで捜査陣にもハッキングに長けた若い刑事サイラスが加わって強化を図る。しかし。
アノンは犯人ではなかった。アノンの仕事を追いかけて、アノンの依頼者を殺して回っているやつがいる。アノンはそいつを誘き出すためにサルを利用したらしいです。犯人もアノンと同じく"記録のない人間"だった。サルが犯人を仕留めた後、刑事仲間にも上司にも何故そいつを捜査陣に入れたのか分からない有様。犯人にそうするよう仕向けられていたようです。人形使いみたいなやつだな。
ところでこの世界って強制的に視覚の記録を取られててシャットアウトすることって出来ないのかな。だからか、視覚の監視を信頼しきっていて、実際にどうだったかではなく、視覚の記録でどうだったかの方が重視されるようです。記録が改竄されててもそれを証明できないのでサルも偽の記録で陥れられてしまう。この融通のきかなさが皮肉にも思えて笑えない愚かしさを感じました…。
アノンは独自のアルゴリズムで自分の記録を断片化して他人の記録に埋め込むことで社会から「匿名」になっていました。この設定は面白いと思った。アノンの記録は誰にも読めない、アルゴリズムを知っているアノンにしか読めない。そうすれば記録は自分だけの記憶になり、プライバシーは守られる。アノンは正しくないこと(プライバシー侵害)が正しいとされ、正しいこと(プライバシーを守る)が悪とされる社会はおかしいと訴えているのだろう。だからそのおかしさに気付かないサルとは分かり合えないと言うことだろう。記録改竄請負業をやっていたのもプライバシーを守りたい人たちを助けるためね。
未来的なメカの類は1つも出て来ないSFですが、今の方向で未来を進めたら案外こうなりそうでけっこうリアル。メカや技術方面は進歩するほどスマートになって裏に隠れて表の生活は(衣食住の流行こそあれ)そんなに変わらない気がしてきます。