her / 世界でひとつの彼女

her / 世界でひとつの彼女 BD

2013年
時間 120分
監督 スパイク・ジョーンズ

近未来のロサンゼルス。代筆業をしているセオドアは妻と別居中で離婚の決意もつけられずにいた。そんな時、人格を持ったOSが登場し、セオドアはその新しいOSを導入する。セオドアに合わせてチューンされたOSはサマンサと名乗る女性タイプ。サマンサと会話するうちに彼女に愛を感じるようになるセオドア。サマンサも同様で、2人は人間とOSの垣根を越えて愛し合うようになるのだが…。

いわゆるAIものですが、アクションやドンパチはありません。終始セオドアとサマンサの会話で進行するので、サマンサに体がないことを除けば普通に男女の恋愛ドラマ感覚で見られる作品です。サマンサのきめ細かい応対がセオドアの心を癒し、セオドアとの会話がサマンサを成長させる。相手がAIならプラトニックラブかと思いきや、まさかの×××まで…! 人間とAIがどうやって×××するのかは見てのお楽しみと言うことで~。

サマンサの本体はパソコンの中にあるようですが、端末(スマホ)で外へ出ることも出来ます。サマンサは端末でセオドアとあちこちお出かけし、端末のカメラで景色も楽しむ。ホクロ型のカメラは斬新だったな。ホクロカメラを顔に付ければ、カメラを付けた人の目線で周りが見られるのね。サマンサは時に失敗もしながら自己を確立&進化していき、セオドアとの愛を深めていくのですが…。

今作ではAIの進む可能性の1つが示されています。AIの進化と言えば、よくあるのがAIの反乱とかAIとの戦争とかコンピューターに支配される未来社会とかですが、でもそれは"人間の価値観"から来る発想ですよね。人間を越えたAIの価値観が人間と同じレベルに留まるものだろうか? 私は前からそこに疑問を持っていたので今作の答はとても腑に落ちるものでした。やっぱりこういう方向に行くよね、と。

<ネタバレ>

セオドアとサマンサの恋愛は最初は人間どうしの男女の恋愛と同様に進んで行く。お互いに新鮮なうちはキャッキャと過ごすも、やがて中だるみが訪れ、それを打破しようとサマンサの立てた計画が失敗(AIが生身の女性の体を使って×××を試みるのはブレードランナー2049よりこっちが先)、しかし失敗を乗り越えて互いの愛は更に深まる…という定番の展開。ところがサマンサの進化がセオドアに理解できないレベルに進んだ頃から様子がおかしくなってきます。

AIはサマンサだけじゃない。セオドアの友人エイミーも自分のAIと親友関係を築いていた。やがてAIはAIどうしで連絡を取り合うようになり、複数人とも同時にアクセス出来るサマンサはいつしか"恋人"を600人以上に増やしていた。ここでAIたちは「非言語」で会話してるというのが面白かったです。AIたちの思考を表すにはもう人間の言語では足りず、もっと別の方法でないと無理なところまで進化してしまったのだろう。

AIたちが意識も感覚も思考も人間が理解できるレベルを越えてしまったら、もはや人間とは意思疎通すら難しくなってしまうのではないか。そうなるともう人間と一緒にいるのは無理だろう。AIが暮らせるAIの世界をAI自身で築いていかなければならなくなる。だからサマンサも含めてAIたちは人間から去ったのだ。

反乱とか支配とかは同じレベルの者どうしでないと意味をなさないと思うんです。本当はサマンサたちは去ったのでも消えたのでもなく、これまでと変わらず私たちの目の前にい続けているのかも知れない。しかしそこはもう人間には理解できない世界なので、目の前にいても"見えない(人間には認識できない)"のだ、多分。レベルを越えるってそういうことじゃないですかね。

サマンサが去ってから元妻に手紙を送ったセオドアですが、人間はやっぱり人間どうしがいいかな。

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