ザ・ホスト 美しき侵略者
年 | 2013年 |
---|---|
時間 | 125分 |
監督 | アンドリュー・ニコル |
人類はソウルと呼ばれる侵略者に体を乗っ取られ絶滅寸前に追い込まれていた。わずかな生き残りの1人であるメラニーも捕まってソウルに寄生される。だがメラニーの心は寄生後も消えずに生きていた。メラニーは寄生者ワンダラーに話しかけ、ワンダラーもメラニーの話に耳を傾けるようになっていく。1人の体に2つの心を持つことになったメラニーとワンダラーは生き残りたちの隠れ家に向かうが──。
TSUTAYAの4本1000円レンタルの数合わせで借りて見たのが最初ですが、思いがけず好きな作品になりました。寄生虫みたいな宇宙人に体を乗っ取られて侵略されるというのはSFでは珍しい話ではないけど、寄生者目線で話が進むのが目新しかった。そう、主人公は寄生されたメラニーではなくて寄生したワンダラーの方なんです。ワンダラーの本体は手のひらに乗る程度の大きさですが、霧のような白いものが光り輝くファンタジックな描写になっていて美しい。
メラニーの体に入って目覚めたワンダラーはシーカー(生き残りの人間を探す捜索者)にメラニーの記憶から人間の隠れ家を探るよう言われる。もちろんメラニーは反発。体の主導権はワンダラーが握っているのでメラニーは話しかけることしか出来ないのだけど、メラニーの意思が強靱なのでワンダラーも彼女の声に耳を傾け、協力するようになっていく。見てる方もそんなワンダラーにだんだん感情移入していってしまう。しかしワンダラーが人間に心を開き始めても寄生された人間はそう簡単には信用されないし、しつこくつけ狙うシーカーとの攻防戦も絡んで、目が離せなくなります。
ちょっと皮肉に感じたのが、ソウルに寄生されることで人間に争いや戦争がなくなって世界が平和になるという状況。ソウルは争いが嫌いで嘘をつかず信頼しあう種族だから。えっ、でもだとしたらシーカーの行動ってソウルらしくないんじゃ?と思うのですが、何か理由があるのか…?
<ネタバレ>
ワンダラーはメラニーの弟と恋人のいる隠れ家に行き、疑心暗鬼な人たちに囲まれて色々あるも少しずつ信頼関係を築いていって、地球人と共存できる道を考え始める。ワンダラーはソウルを地球人から殺さずに取り出して星へ戻す方法を教え、自分はメラニーに体を返して消えようとする。メラニーも2人で協力し合ううちにワンダラーに心を開き、ワンダラーを侵略者ではなく友と見るようになっていた。ベタでも敵対関係だった2人が友情と信頼を育むのがいいんです、心が温まるじゃないですか。だからワンダラーがメラニーから離れた後、別の女性の体で復活できたのは素直に嬉しかったです。私もワンダラーには生きて欲しかったから。
ところで人間の残党を執拗に追いかけていたシーカーですが。メラニーの仲間を捕まえようとした時、ソウルを宿した人間まで撃ち殺してしまう。これにはシーカーの仲間たちも首をかしげた。実はシーカーに「これで私に勝ったつもり?」という"声"がどこからともなく被さるシーンがあるんですよね。誰の声?と思っていたら、シーカーの宿主も意識を失っていなかったことが最後に判明します。シーカーは宿主の声に耳を傾けるタイプではなかったけど、彼女が必要以上に人間に執着したのは宿主(レイシー)が意識下で影響を与えていたからでしょう。シーカーは取り出され星に返されてレイシーも自分の体を取り戻すのでした。
ワンダラーは隠れ家で暮らすうちイアンという青年と恋仲になっていた。ワンダラーが新しく宿った体は寄生されて意識が消滅した女性。でも容姿が変わっても髪の毛をさわる仕草でイアンはワンダラーだと分かる。見かけではなく中身への愛は本物。よかったね、ワンダラー、いやメラニーたちの呼び方に合わせて私も貴女をワンダーと呼びますね。
人間ではないものに感情移入させる系って、普段とは違う目線から世界を見せてくれるところが面白いんです。ソウルにとって寄生は生きるのに必要で当たり前のこと。彼らは自分たちにとって当たり前のことをやってるだけで、そもそも侵略したとすら思ってないだろう。でも人間にしたら意識を消されてしまったらそれは死と同じなので侵略されたと思う。価値観や考え方の違いをこういう形で描けるのもSFならではの楽しみです。