人狼 JIN-ROH

2000年
時間 98分
監督 沖浦啓之

架空の昭和30年代後半が舞台。戦後の混乱を抜けた日本では過激派集団のテロが横行していた。警察とは別に組織された自警団の特殊部隊(特機隊)もテロ鎮圧に当たっていたが、部隊員の伏は少女の自爆テロを防げなかったことで特機隊養成学校での再訓練に戻される。その伏の前に自爆少女の姉と名乗る女性が現れた。出会いを重ねるうちにいつしか惹かれ合う2人だが──。

1997年のアニメージュで「スチームボーイ」の紹介記事と一緒に載っていたのを見たのが、今作を知った最初。脚本が押井守ということで興味はあったけど、映画館で見られなかったため数年後にレンタルで鑑賞したのが初見でした。その時感じたのが「なぜ架空の昭和なのか?」という疑問。リアリズム系の絵柄で昭和30年代の風景をリアルに再現することにも力を入れてるのだけど、そこまでやるならますます架空でやる必然性って?と思ってしまう。

冒頭で状況設定の説明があるんですけど、ややこしくて一発で頭の中に入ってこない。取りあえずまだまだ情勢が混乱してて過激派とかテロとかの力が強いのね?と理解。警察や自衛隊とは別に首都警というのがあって、その中の戦闘部隊(特機隊)がプロテクトギアと呼ばれる装甲装備で身を固めている。要するにパワードスーツみたいなイメージです。このパワードスーツを出したいがために架空の昭和にしたのかな?と思ってたけど、後になって、もし警察の特殊部隊がパワードスーツを身に着けたらどうなるか?という発想だったということを知って、やっぱりそうだったのかと(押井守のケルベロス・サーガの一環らしい)。

ただ、物語の軸そのものは政治闘争と組織の駆け引きを背景にした男女の恋の行方なので、あり得ないアクションやバトルではなく、あくまでもリアル指向で進みます。作画も派手な色は使わず暗くて地味な色合いでキャラの演技にも無用なオーバーアクションは入らない。伏が身に付けるパワードスーツも突飛なものではなくて「昭和30年代ならこんなものだろう」と思える範囲のもの。だから尚更架空設定が気になってしまうんですよね、自衛隊に一般人に知られていない特殊部隊があったという設定でも問題なくない?と思えて。

なお「人狼」とは特機隊内に極秘で組織されている?と噂される謎の精鋭部隊。本当に存在するかどうかは公安も知りません。

<ネタバレ>

特機隊を潰したい公安はスキャンダルを目論む。その標的に選ばれちゃったのが伏。公安は逮捕したテロ組織の女・圭を「自爆少女の姉」と偽って伏に差し向ける。交際するうちに圭に惹かれる伏だったが、それは公安の罠だった。しかし圭も付き合ううちに伏を好きになる。公安の罠を突破して2人で逃避行状態になる伏と圭ですが…(と文章で書くとロマンチックだが、作風とリアル指向の芝居のせいでそこまでロマンチック臭はない^^;)。

実は「人狼」は実在した! 伏こそが「人狼」の精鋭だった! 「人狼」のリーダー・特機隊教官は公安の企みを見抜いており、伏も圭がスパイだと知った上で公安の罠にわざとかかったのだった。罠にかけたつもりで罠にかかっていたのは圭の方だったのだ。プロテクトギアを身に付けターミネーター化する伏! 公安の追っ手を(それが友人であっても)情け容赦なく一掃し、かくして狼は赤ずきんを食す。

2人は本当に愛し合っていたのだろうか。2人に愛が芽生えたのは本当だと思う。しかし「人狼」として生きるためには伏は圭を殺さなければならなかった。そして伏は「人狼」としてしか生きられない男だった。だから2人が共に生きられる未来はない。この切なさがずしんと来るのですが、この展開ならやっぱり普通の昭和の方がより感情移入できたと思う。昭和にしなくても近未来でもよかったんじゃないかなあ(おっと、最近そんな実写が出たような…)。