スノーピアサー
年 | 2013年 |
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時間 | 125分 |
監督 | ポン・ジュノ |
地球温暖化の政策を誤り氷河期と化した地球。生物は死滅し、永久機関で走り続ける列車スノーピアサーに乗った人たちだけが生き残った。列車の中は階級社会になっており、下層階級は最後尾に押し込められ17年間も辛い生活を余儀なくされている。最後尾のカーティスは反乱を起こして、列車の支配者ウィルフォードがいる先頭車を目指すが──。
とにもかくにも設定がブッ飛んでます。地球が氷河期状態になった理由はまあいいとしても、地球を一周して走り続ける列車で人々が暮らすという発想が凄すぎる。ノアの箱舟列車版に加えて貧困層vs富裕層までやってます。地球が氷河期になった時、最後尾に一般人も詰め込めるだけ乗り込んだのはいいが、本来は金持ち用列車のため列車内で乗客が階層社会化したということらしい。
しかし、この走る箱舟「スノーピアサー」の魅力が突っ込みどころを上回ってくれてるおかげで、珍作ながらも面白い作品に。これは元々ウィルフォードが子どもの時の夢を叶えるために開発した列車。少年ウィルフォードは列車が好き過ぎて、列車の中で暮らしたいと願うほどだった。完成したスノーピアサーは自給自足で世界一周しながら走り続ける。植物も魚も肉も列車内の閉じた生態系の中で生産消化。仕立屋も歯医者も美容室も学校もあります。私も乗ってみたい。氷河期でなければ、夢の超豪華世界一周の旅になれたのにねえ。
だが金持ち用施設は最後尾の人間には縁のない世界。最後尾は窓もなく(倉庫車両だったのかしら?)不衛生で汚くてかなり悲惨な状態。最後尾のシリアスさに比べて、富裕層は滑稽にコミカルな描かれ方をしていて、一種の比喩になってる感じ。
<ネタバレ>
最後尾の人たちはこの17年間で度々反乱を起こしていたけれど、実はそれはウィルフォードと最後尾のリーダーだったギリアムが仕組んでいたものだった。限られた空間で人口のバランスを保つには時々荒療治を行って人間を減らす必要があるというのが理由。ショックを受けるカーティスだけど、カーティスに協力していたミンスとヨナは別のことを考えていた。17年経って氷雪は少しずつ溶けてきており、列車を降りて外の世界でも暮らせるのではないかと。カーティスはウィルフォードの誘いを受けるが、結局子どもたちを守る道を選ぶ。
現状を変えたくない(今の生活を続けたい)富裕層、富裕層と同じ暮らしがしたい貧困層。ミンスが示したのはそのどちらでもない第3の道だった。ミンスの行いによって、富裕層も貧困層も「現状維持」という同じレベルに留まっていただけのことが分かる。カーティスが勝ってもウィルフォードに取って代わるだけで、そこには何の変化もない。もう一歩、突き抜けないと新しい世界は開けない。どの扉を開けるのか。富裕層に成り代わるだけの扉か、新しい世界への扉か。
走り続ける列車はまさに現状維持に囚われて同じ道をぐるぐる回り続けている社会そのもの。現状維持には退化はなくても進化もない。だがミンスが開けた穴から新しい世界が生まれた。ラストのヨナとティミーとシロクマは現状維持を打破できたことを表現しているのだから、野暮な心配は不要。素直に希望と受け取ればいいと思います。