未来のミライ

未来のミライ BD

2018年
時間 98分
監督 細田守

くんちゃんに妹が産まれた。妹は「未来」と名付けられた。だけどお父さんとお母さんは赤ちゃんの妹の世話にかかりきりで、なかなかくんちゃんを振り向いてくれない。寂しかったり嫉妬したりしてるくんちゃんだが、中庭の木が光ってそこからくんちゃんの前に現れたのは…?

妹が産まれて寂しかったくんちゃんの心をアニメならではの表現で描いた男の子の成長物語──なんですが、個人的にまず目を引かれたのが「くんちゃんの家」でした。建築好き、デザイナーズハウス好きなら見入ってしまう斬新な設計の一戸建て。土地が(周りと比べると)間口が狭くて奥行きが長い形状で、中庭のあるおしゃれな家。どちらかと言うと狭小住宅系ですかね、あれは。子どもの頃からチラシの間取り図を見るのが好きで、渡辺篤史の「建もの探訪」を欠かさず見てるのですが、まさにその「建もの探訪」に出てきそうな家。アニメで「建もの探訪」させてもらえるとは思いませんでしたわー(喜んでる)。ちなみにお父さんは建築家だそうで、建築家の自邸ってことになるのでしょうね(建築家の自邸は実験的で変なのが多い)。

そのお父さん、フリーになったので家で仕事する代わりにお母さんが仕事で留守中の家事・育児も引き受けることになって大変。お母さんでも新生児には振り回されますから、慣れないお父さんとなると更に大変、もうくんちゃんどころじゃないわけで。見ていて、思わず自分の子育て時代を思い出しました。うちは4才離れた兄弟だったけど、弟が産まれた時、お兄ちゃんはどんな気持ちだったのだろう。寂しい思いはさせてなかったろうか、気付けてない所があったのではないか──となかなか心にきました。

本作の見どころは、やっぱり「揺れ動くくんちゃんの心」のアニメならではの描き方でしょうね。出てくるのは未来の未来だけではない。くんちゃんの心と連動して色々な人や場所が出てきます。最初は嫉妬、次は妹への思い、かまってもらえない寂しさ、そして自分の居場所──と、それぞれの状況に合わせてくんちゃんの心の旅が描かれます。子育て終わった人にも、「あの頃」を振り返らせてくれて懐かしい気持ちにさせてくれる作品。

<ネタバレ>

くんちゃん家の中庭には1本の大きな木がある。家を建て替える前からずっとそこに在って、家族の歴史を刻んでいる。過去から未来までずっと。その木がくんちゃんの心に反応して、くんちゃんを過去から未来まで旅させる。木が見せた最初の奇跡は飼い犬のゆっこ。ゆっこが人間の男の姿になってくんちゃんと会話する。ゆっこがくんちゃん家に来たのは、くんちゃんが産まれる前だったのね。

次に木は未来から妹の未来を連れてくる。それでタイトルの「未来のミライ」となるわけですね。木は未来だけではなく過去も見せる。くんちゃんはお母さんの子ども時代にも会う。更にもっと遡って曾祖父の若い頃にも会い、自転車の練習をする勇気をもらう。でも小さな成長を積み重ねても、くんちゃんの一番の問題は、やっぱり妹が産まれたことで自分の居場所をなくしたような気持ちになっていること。ズボンの色が発端で「家出」したくんちゃんは変な世界に迷い込んでしまって(この世界の異様さは強烈^^;)、戻るには自分が「誰の何」なのか言えないといけない。それが言えないと「居場所のない人間」として暗闇に連れていかれる──。

くんちゃんの居場所は? 答は「ぼくは未来のお兄ちゃん」。これまで嫉妬の対象だった未来を妹として受け容れ守ろうとすることで、くんちゃんは子どもの階段を一歩上るのですね。くんちゃんの心の帰結と共に、「家族とその時間のつながり」にも言及してくれたのが共感できて面白かったです。

なお、今作での「時間」の扱い方は物質的なものではなくて、いわゆるタイムトラベルとは違うと思います。実際に過去や未来に行ってるわけではなく、木の刻んだ時間のデータに心がアクセスしていると捉えればいいのではないでしょうか。そういう形で子どもの成長を描くのも夢があっていいなと思います。てか、好き。

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