アンノウン

2011年
時間 113分
監督 ジャウム・コレット=セラ

植物学者のマーティン・ハリスは学会に出るため妻のベスと共にベルリンへ入国。ところがホテルへのチェックイン時、荷物が1つ足りないことに気付き空港へ取りに戻るが、事故に遭って4日間意識不明に。ところが、気付いたら自分の偽物がマーティンに成り代わっており、妻すらも自分を知らないと言う…? 事故でパスポートを無くし身分証明書がないマーティンはどうやって自分が本物だと証明できるのか!?

サスペンスです。ある日突然自分の偽物が出現し、しかも周りは皆(妻でさえ)偽物の方が本物だと言い、自分が本物だと言っても証明できないし信じてもらえない…と謎の事態発生。しかも偽物には自分の記憶まである…! 周りがおかしいのか、それともおかしいのは自分の方なのか…!? これをSFでもなくファンタジーでもなく夢オチでもなく、きちんと整合性のとれた現実の出来事として描いてくれたのはすごい。

マーティンはアメリカからドイツに来たばかり。当然周りは知らない人ばかりですが、つい最近入国したばかりだし、妻はホテルに居るはずだから、ホテルに行って奥さんと会えば解決のはず。…だったのに、妻の側には「マーティン」と名乗る見知らぬ男がいて、妻にも「あなたは誰?」と言われる。これでは自分の方が怪しい男扱いされかねないし、実際そうなって捕まる。何とか逃げ出したマーティンはどうにかして自分が本物のマーティンだと証明しようとするのですが…。

いったいどうしてこんなことになったのか、その謎解きと真相も、自分は自分なのかというアイデンティティーへの問いかけも、それも面白いんですが、今作にはもう1つポイントがあって、実社会で身分証明書がないとどうなるか…?というもやってくれているんですね。マーティンは自分を乗せて事故を起こしたタクシー運転手を探し出して自分を証明する手がかりにしようとするのですが、そのタクシー運転手のジーナ(実質のヒロイン)が不法移民で、彼女も自身の証明書を持たない身の上。つまりアンノウン(身元不明者)。もちろん彼女はなりたくてアンノウンになったわけじゃない。ボスニアから逃げてきたという背景事情がある。主人公はパスポートを無くして自分もアンノウンの境遇になることで、証明書のない人間の暮らしの実体を知ることにもなるのです。

<ネタバレ>

主人公は事故で記憶が一部飛んでいたので、一時はおかしいのは自分ではないか…とも思います。が、変な男に尾行されたり、その男が自分を殺そうとしたり、邪魔になる看護師を躊躇なく殺害するのを見て、やっぱり自分の記憶は正しいと確信を持つ。だが真実は…。そしてその裏には恐るべき陰謀があった…。

殺し屋たち(プロ殺人組織=探偵のユルゲンはセクション15と呼んでいた)の目標は学会でブレスラー教授の研究を奪い教授を殺すこと。教授に近づくために創り上げたのがマーティン・ハリスという架空の人物だった。主人公はマーティンの役を演じるはずだったが、事故で意識不明になったため、妻役の女性は急遽予備要員を要請。偽物(正しくは事故で使い物にならなくなった主人公の代替要員)が「マーティンの記憶」を持ってたのは同じシナリオを知っていたから。つまり、主人公は事故で記憶喪失になったがシナリオ部分だけは覚えていたので、自分をマーティン・ハリスだと思い込んだのですね。なるほど、この絡繰りは面白かったです。主人公の記憶が飛んで予想外の動きを始めたのは仲間にも想定外だったろうが、しばらく主人公を尾行しながら様子を見て、こいつもうアカンわ…て判断になったので消しにかかったのでしょうね。

自分の正体を知った主人公は、しかし仲間を裏切りテロを阻止する。プロの殺し屋だった人間が記憶障害を経験したくらいで「いい人」になるかな?と思ったけど、マーティンでいた数日間が彼に何かの影響を与えたのかな。どちらにしろ(プロ殺し屋としては)あんな失態をしたのではもう組織には戻れないだろうし消されるだけだろうから、抜けるしかないでしょうけどね。

ラストで主人公は新しい偽造身分を作り、ジーナにも身分証明書を作る。これでジーナも普通に暮らしていけるようになった。もちろんこれは不法移民の解決にはなっていないけど、自分を証明できないと生きていけない世界への問いかけにはなっていると思う。ジーナが不法移民設定なのもそういうことだろうから。タイトル「UNKNOWN(身元不明)」の意味も含めて。