風の谷のナウシカ

風の谷のナウシカ DVD

1984年
時間 116分
監督 宮崎駿

今から1000年後の地球。そこは腐海と呼ばれる菌類の森とそこに棲む蟲たちの支配する世界だった。ある日、腐海のほとりで暮らすナウシカたちの風の谷に大国トルメキアの輸送船が墜落する。積み荷の巨神兵を蘇らそうとするトルメキア軍に占拠される風の谷だが──。

宮崎駿の作品の中では一番好きです。映画館で公開時に見ているので受けた感動と衝撃も大きかったです。若くて感受性も強かった時期に見られたのもあって、後にどんな宮崎作品が出てきても「自分の中での一番」が揺らぐことなく今日まで来ているのではと思います。

後年、念願のBDを手に入れましたが、今見るとナウシカの神がかり的なスーパーヒーローぶり(ヒロインというよりヒーローと呼びたい…)が凄いですね。熱いです。後期の作品と比べると若さと青さが感じられますが、その分素直に「かっこいい」と思わせてくれます。ナウシカだけでなくクシャナやクロトワ、ユパなど魅力的なキャラも多く、王道のストーリー展開とも相まって胸ワクワクさせてくれました。

ですが。実はナウシカで一番気に入っているのはキャラではなくて、腐海王蟲なのです。この発想には「やられたッ」と心底唸らされました。菌類を森にするという目の付け所がすごい。SF大好き派はこの発想だけでノックアウトされてしまう。しかもそれを「美しく」描いてくれているため、腐海と王蟲にも感情移入できてしまう。腐海の中を飛ぶシーンがいい。腐海の描写がいい。腐海だけでも何回でも見ていられる。私もナウシカのように腐海の中を飛び回って蟲と王蟲と触れ合いたい。腐海最高! さあ皆で蟲と菌を愛そうじゃないかー(笑。

そして何よりも素晴らしいのは、自然の力を「腐海」という形で描くことで、どんなに文明が発達しても、地球が持つ自然の回復力の前には人間など無力だと訴えていることですね。人類よ、奢ることなかれ、自然には勝てないのだと──。

*ところで。ナウシカには漫画もありますが、漫画は映画とはかなり違うので、以下漫画版についても少し触れておきます(ネタバレかもなのでご注意)。

漫画版ナウシカについて

漫画のナウシカは読んでいませんが、後年漫画版のネタバレラストを知って唖然…。正直困惑しました。この際ナウシカはどうでもいい。問題は腐海の設定が映画とは180度違うことです。漫画の設定では人間は科学力で自然を完全に支配できてることになってしまう。人間には自然は支配できないというのがポイントだったのに。映画ナウシカは「腐海が自然発生した」ことに意味があり、その前提が崩れたら受けた感動もメッセージも全てが台無しになってしまう。漫画ファンの人には悪いけど、これでは映画と漫画は完全に切り離して別物として扱うしかないと思いました。

漫画のネタバレラストを知った上で、やっぱり私は映画ナウシカの腐海が好きだと言わせていただきます。腐海が自然に発生したというところがいいのです。人間とは関係なく地球が自ら行う自然浄化にこそ意味があると思うからです。映画の巨神兵は人類の罪(科学)の象徴として機能してる。腐海と王蟲は自然の象徴として機能する。科学の象徴が自然の象徴に歯がたたず潰されることで、人類の科学力などで自然を支配することなど無理なのだと伝えてくれている。だから自然を支配するのではなく共に生きようというメッセージになる。

私たちに科学は必要だ。私たちはもう科学なしでは生きられない。だからこそ科学とどう向き合うか、どう付き合っていくかを考えていかなくてはならない。だからナウシカには科学に対する警鐘を鳴らすSFであってほしい。漫画ナウシカがそういう話ではなくなったのなら、せめて映画ナウシカだけでもそういう作品であり続けてほしい。それが私の映画ナウシカへの思いです。

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