猿の惑星[小説]

猿の惑星創元SF文庫/創元推理文庫

著者 ピエール・ブール

太陽系探索が終わり、恒星間航行へのチャレンジが始まった時代。新聞記者のユリッス・メールはアンテル教授らと共にオリオン座のペテルギウスへ向かい、地球そっくりの第2惑星に着陸。だがそこは猿が支配する惑星だった。知恵と文明を持つのは猿で、人間はジャングルに生息する知性なき動物。猿に捕らわれたユリッスは自分が知的生物だと証明しようとするが…。

「猿の惑星」と言えば映画が有名ですが、実は私は原作派です。初めて読んだ時の衝撃は凄かった…! まず小説と映画ではラストのオチが違う(ここ重要)。映画とは構成のしかたも違っていて、小説では主人公ユリッスの冒険は「手記」なんですよね。宇宙空間に漂うビンの中に入っていた手記なのです。手記だからこの話を信じるかどうかは読み手の判断に委ねられる。ビンを拾って手記を読んだカップルも当惑。猿と人間の立場が逆だって!? そんな信じられないことがあるの!? この発想も素晴らしいけど、小説ならではの面白さにも満ちていて、何回読んでも飽きないお気に入りの1冊です。

基本は猿の惑星での冒険譚で、難しいところはありません。出版が1963年なので、SF説明部分も夢に溢れていて楽しい。全体は3つの章になっていて、猿の惑星に到着して猿に捕獲されるところ、ジラ(生物学者の雌チンパンジー)やコーネリアス(ジラの婚約者の雄チンパンジー)との交流、そして猿文明歴史の謎と主人公に訪れる危機…と展開していきます。

映画(1968年)との違い

まずは小説では人間がすっぽんぽん! 男も女ももちろんヒロインのノヴァも! 映像がなく文字だけだから出来ることですね。映画ではさすがにそこまでは無理。どうしても腰布を巻いたりして誤魔化すことになりますが、「知性のない動物」という設定なのに腰布着けたらおかしいですよね。腰布着ける文化があるってことになっちゃいますから。そこは設定に忠実に描写できるのが文字だけ小説のいいところ。

そして言葉の違いを克服していく猿との交流。作者がフランス人なので、主人公もフランス語です。そして猿は地球とは違う惑星の生物だから、言葉も地球のものとは違う。作中では猿語と表記されてますが、要は未知の言語です。猿に捕らわれて檻に入れられたユリッスはフランス語で叫びますが、当然相手には通じない。自分に知性があると分かってもらうためにまずは幾何学の図形から始め、興味を持ってくれたジラにフランス語を教え、ジラから猿語を学ぶ。ユリッスが猿たちと会話出来るようになるまでを丁寧に描いてくれており、それも本作の見どころです。映画ではそこまで時間かけてられないから、主人公も猿たちも最初から英語で普通に会話できてるという不自然なことになります(だから映画ではその辺の辻褄を合わせるためにあの設定にしたのかな)。

舞台が地球ではなく別の惑星なので映画とはストーリーも細かい展開などは違いますが、ジラとコーネリアスが味方でオランウータンの御用学者ザイアスが邪魔をするのはお約束。この惑星では何故人間が動物で猿が知的生物なのかについても描かれてますが、その辺は途中の展開が違っても映画も辿り着くところは同じかな。

SFならではの風刺劇

人間と猿の立場を入れ替えることで、人間と文明の風刺を行っているのが本作の面白さ。ユリッスにはだんだん猿たちが人間に見えてきて、地球の人間たちを思い出す時、彼らが猿に見える。猿の惑星の歴史そのものが痛烈な風刺劇になってますが(人間が退化して猿に支配されていく過程なども)、作者の風刺はそこだけでは終わらない。危機を脱したユリッスの前に驚きの展開が待っており、遠い惑星の話が自分たちの現実になる。だが、作者の仕掛けはそこで終わらない。ラストに衝撃のどんでん返しが待っていて、読者を打ちのめしにかかります。映画のラストより小説のラストの方が衝撃度は数段上だと思うし、自分としてもこの方が好き。

このどんでん返しについては敢えてここでは触れずにおきます。未読の方には是非ご自分の目で確かめて欲しいから。これこそ小説の醍醐味。

手記を読んだカップルはこの話をどう判断したのでしょうか、そしてあなたは…?

*映画の感想は以下からどうぞ。
猿の惑星シリーズ9作品まとめ 見る順番と原作との比較・解説

猿の惑星
創元SF文庫/創元推理文庫

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