TENET テネット

TENET テネット ブルーレイ&DVDセット (3枚組/ボーナス・ディスク付)

2020年
時間 151分
監督 クリストファー・ノーラン

オペラハウステロ事件の行動から適正ありと判断された工作員の男は「テネット」という新しい任務を命じられる。彼が見せられたのは「時間に逆行する弾丸」だった。未来から送られた「逆行する兵器」は過去を変える恐れがあると言う。男は問題の弾丸から武器商人を辿り、協力者である相棒ニールと共に、過去を葬ろうとする未来人の陰謀と戦うことになる。

とても映画館で見たかったのですが、新型コロナで慎重を期してる間に公開が終わってしまいました…。レンタルが始まって、ようやく見ることが出来ました。が、難解との噂通り、1回見ただけではよく分からず、何回も見直すことに。そういう点ではレンタルで良かったのかも…(と思うことにする)。ただ私がよく分からなかったのはSF設定部分ではなく(その辺は適当に楽しんでおけばよい)、ボーッとしてると話の進行についていけなくなることがあったからです。冒頭から何の説明もなくいきなりテロから始まるし、とにかく状況に説明がない。「んん?」とか思ってるうちに伏線を見落としてたり、おかげで肝心なところで意味が分からなかったり。がっつり集中して見なければいけませんね。

SF部分は文句なく面白い。時間をテーマにしたSFが好きなのもありますが、「時間の逆行」というのが今までにない発想で斬新。つまり過去へ行けるわけですが、タイムトラベルやタイムスリップとは違って、過去の任意の時点に一瞬で飛べるわけではない。1時間前に戻るためには1時間かけて時間を逆行しなければいけない。だから1週間前に戻るには1週間かかるし、1年前に戻るには1年…これは忍耐のいる時間旅行だな。しかも逆行中は自分以外の動きは全部逆行して見えるし頭がこんがらがりそうです。なお、逆行で過去へ戻るという設定上、今作は平行世界ではなく同じ時間軸での時間移動ということになりますね。

時間逆行描写も新鮮。単純に逆行するだけならアベンジャーズの「ドクター・ストレンジ」にもありましたが、今作では逆行してる人と普通の時間の流れにいる人とが直接触れ合ってバトルしたりするので、なんとも複雑で面白い動きになる。分からないところがあっても逆行描写だけでも楽しめてしまいます。

話の大筋は実はシンプル。未来人の攻撃から世界を守れ!なんですが、敵の未来人が出てくるわけではなく、未来人との仲介役になってる現代人が敵ボスとして登場するので、そいつとの駆け引きがバトルの中心になります。そのため雰囲気としてはスパイアクションふう。主役がトム・クルーズならミッション・インポッシブルだわ、これ。

時間逆行&スパイふうアクションだけでも楽しめますが、注意して見るとアクションの裏に隠れているドラマも見えてきます。そこに思いがけない感動があるので、一瞬の描写も見逃さないよう注意して見てやって下さい。

<ネタバレ>

新しいミッションを命じられたにもかかわらず、主人公に与えられたのは「テネット」というキーワードだけ。逆行する弾丸から未来人が過去に干渉しようとしていることが分かり、「未来」と「今」との戦争に勝たねば「今」が滅ぼされることを知る。手がかりは問題の逆行する弾丸だけ。そこで主人公は弾丸の成分に目をつけ、そこから武器商人を辿り、ムンバイのプリヤの情報からロシア人の武器商人セイターへ辿り着く。

ここで主人公の相棒になるのがニールですが、彼はどこか謎めいてる。最初から全てを知っているふうでもあり(妙に詳しいし)、そもそも何処から誰に派遣されたのか。それでも主人公はだんだん相棒として友情と信頼を感じるように。そしたらラストで…! そうだったのか、そーだったのか、ニール~~!! ここで私、最初に見た時にオペラハウスの伏線(オレンジのストラップ)を見落としていましてね、見直してあれもニールだったんだああぁと気付いて涙する。未来の主人公から過去の主人公に協力するよう命じられて未来からやってきた…と言うターミネーターのカイルみたいな役どころでした。テネットは世界を救うために未来の主人公が作った組織だったのですね。

主人公とニールたちが作戦実行中に逆行する車とか逆行する敵とかが現れるのですが、実はあれ自分だった!自分VS自分だった!というのも時間ものの醍醐味。回転ドアと呼ばれる装置に入ると逆行できるのですが、前半のあれこれが後半で種明かしされていくのが面白い。しかし逆行に順行(普通の時間)と同じだけ時間かかるのなら、その間どこで過ごすんだ?と思ってたら船だったんですね。なるほど、沖合いの船の中なら怪しまれず逆行時間を過ごせるわけだ…。一週間戻るなら一週間分の食料や空気を積み込んで籠もる、ということでいいのでしょうか。逆行中は呼吸も逆になる?ようで、息するのに酸素マスクが必要とか、生活空間を無菌室みたいなので覆ったりとか、なかなか大変です。

ニール=マックス?

1回目を見終わった後で、「ニールがキャットの成長した息子だったのは分かった」という感想を聞いてのけぞる。ぃええっ、そんな描写あったっけ!? 私はそこまで気付かなかったのですが、ニールが主人公と会った時「女性や子どもを人質に取るか?」と聞いてたり、ラストの様子などからピンと来たそうな。でも言われてみれば確かにニールがマックスだったなら腑に落ちるところがたくさんある…。

何よりもニールが何年もかけて過去へ来た理由。今作では10年戻るためには10年かけないといけないため、それはかなり壮絶なことですよ…。いくら自分の運命がそうだったからと言っても10年も逆行を続けるのはそうとうな根性が要る。主人公との友情だけだったら10年の歳月の中で気持ちが薄れてきたり飽きたりしかねんと思う。他人のためにそこまでするのは友情だけではキツイ気がします。

だがニールがマックスだったら話は違ってくる。10年戻ることで母の命を救えるとしたら。父の野望を阻止できるとしたら。10年だろうが20年だろうが耐えられると思えてくる。その苦難の道を自分の使命と信じることも出来るだろう。だからニールは自分の運命を知ってなお、そうしないといけないと思えたのではないか。

もう1つの物語

今作の主人公には名前がありません。名前だけでなく過去もほとんど語られない。話の中心にいるのに無色透明みたいな感じでもある。実は主人公は語り手であって、今作が描いていたのは主人公の目を通して語られるニールの物語だったのではないかとも思えてくる。逆行とアクションの裏にあるニールのドラマを思うとじわっときます。もしニールがマックスなら尚更。

色々な角度から解釈して楽しむ余地があるので、噛めば噛むほど味わいが深まるような、病みつきになりそうな作品です。