デューン 砂の惑星[小説]
著者 | フランク・ハーバート |
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老人病特効薬メランジの産地として知られる惑星アラキス。だがそこは砂漠に覆われた過酷な惑星でもあった。ポウルは父レト・アトレイデ公爵と共にアラキスにやって来るが、アラキスの前任者ハルコンネン男爵は莫大な富を生むメランジの利権をアトレイデ家に渡したくなかった。ハルコンネンに攻撃を仕掛けられ砂漠に追われるポウル。メランジで秘められた力に覚醒したポウルは砂漠の民フレーメンに身を隠し復讐の時を待つ──。
石ノ森章太郎のファンだった時期がありまして、ある日書店で手に取った本の挿し絵が石ノ森章太郎だったので買ってみた──というのがこのSF小説との出会い。動機がミーハーですみません、すみません(汗、でも読み始めたら面白かったので話も好きになりました。なお今入手できる版では挿し絵は別の人になっているようです。
基本は領地を追われた主人公の復讐劇ですが、世界観が独特です。公爵とか男爵とか皇帝とか前時代的な宮廷劇のようですが、人類が惑星間を航行出来るようになった未来という設定。作中でチラッと触れてますが、ジハド・プレトリアンという革命で「思考する機械」は一掃されたということになっています。この世界ではAIはあかんかったらしい…。その代わり人間を鍛えてコンピューター並の計算能力を持たせるとか(メンタート)、訓練で精神を鍛えて人を操れる"ヴォイス"を習得したりとか(スター・ウォーズのフォースみたいですねっ)、人間の能力を極限まで引っ張り出すことに力を注ぐ世界になってます。でもこれはこれで面白い。なお、文明はアナログっぽい時代に戻るも、身を守るシールド発生装置とか浮遊する椅子とか、そういうメカは色々出てきます(AI入ってなければいいらしい)。
それもいいけど今作で私が一番魅了されたのは、やっぱり砂漠。子どもの時に「アラビアのロレンス」を見てから砂漠好きになったのですが、作中のフレーメンがベドウィンを連想させるな~と思ってたら、やっぱりベドウィンがモデルだったらしい。フレーメンは迷信深くて救世主伝説を信じてるということになってますが、厳しい砂漠の生活ではそうもなるかもしれん…と思える。
そして最大の魅力が砂漠の王者、砂虫(ウォーム)! 宇宙船より大きいものもいて、口の中には無数の牙があり、人でもマシンでも何でもバリバリと破壊してしまう。ナウシカの王蟲にスター・ウォーズ6のサルラックの口を合わせたイメージでしょうか(もしかして王蟲やサルラックもデューンの影響受けてる?)。こいつが振動に引き寄せられる習性があるため、メランジ採取作業は命がけ。でもフレーメンにとっては砂虫ってそれだけじゃないんですよ、そういうところがたまらない。
メランジも物語のキーですね。砂漠にはメランジが多く、フレーメンは自然とメランジを継続的に摂取することになり、長い間メランジを摂取し続けると眼が青色に染まるのも想像力をかき立ててくれて面白い。しかもメランジには人の意識を広げる力があるらしく、もともと素養があった上に幼少時から特殊な訓練を積んできたポウルは大量のメランジ摂取で未来を見る力を広げていきます。
専門用語が非常に多いので、巻末の用語集と照らし合わせながら読まないと頭がこんがらがる。しかし理解が深まってくるとこれも病みつきになってきます。公家の他に帝国と皇帝、惑星間輸送を担う協会(ギルド)、何かを企む女子修道会ベネ・ゲセリットなどが絡み、ポウルの能力の開花と共に壮大な物語が広がっていきます。3つの章から成るので、章ごとの簡単な流れと感想も。
第1章:砂丘
私の持ってる文庫本ではこの章が上下の2冊に別れてます。本2冊分よ、長いのよ~。ポウルたちがアラキスに来るところから始まって、話の進行に沿いながらアラキスの紹介も兼ねてる章。世界観をじ~っくり味わいます。この時ポウルはまだ15才の少年。しかし幼少時から武術師範やベネ・ゲセリット卒業生の母から精神や肉体の特殊な訓練を受けているので、少年とは思えぬ落ち着きがあります。ハルコンネンの襲撃で悲劇が起こり、ポウルも危機に陥りますが、いつどんな時でも冷静に状況を分析し判断し切り抜けていくのは凄い。ポウルの母のジェシカももうフォース使いにしか見えない。私なんか"ヴォイス"で簡単に操られてしまいそう(^^;。
さて、どうにか砂漠に逃れたポウルとジェシカは…。
第2章:砂漠の鼠
1章が2冊に別れているため、2章ですが文庫本のナンバリングは3です。砂漠に出たポウルたちはフレーメンに助けを求める。フレーメンの生活・価値観はポウルがこれまで育ってきた世界とは何もかも違う。そこを少しずつ学習しながらフレーメンの仲間に受け入れられていくところが面白くて好きです。平行してハルコンネンたちの様子も描かれ、これからどうなっていくのか興味をそそる。ポウルのフレーメン名がムアドディブ(砂漠の鼠)に。
フレーメンに受け入れられるために胎内にレトの娘を宿したままメランジの洗礼を受けてしまったジェシカ。そのことが…。
第3章:予言者
文庫本としては4冊目。あれから3年、ポウルは18才になり、フレーメンの若者として逞しく育つ。長年ハルコンネンに痛めつけられてきたアラキスの住民とハルコンネンに悲劇を起こされたポウルの利害は一致しており、メランジで覚醒したポウルの力はフレーメンには救世主と映る。ポウルが多くの未来を見てそれに飲まれそうになるところや、どの道を選ぶか悩む描写は深くて詳細で文章だけでも次元の広がりを感じさせてくれます。葛藤を乗り越え、アトレイデ公爵として、フレーメンの救世主として、ハルコンネンと皇帝に挑むポウル。
ついに復讐を成し遂げアラキスを取り戻したポウルですが、砂漠好きな私はフレーメンのポウルももっと見ていたかったな…ずっとフレーメンのポウルでもよかったのにな…と思ってしまうのでした。ポウルの妹のエイリアは今後が気になるキャラ。
独自の世界観だけでも十分にハマれてしまうデューンシリーズですが、時の流れに翻弄されていくキャラたちのドラマも興味深い。アラキスを緑の惑星にテラフォーミングしたいカインズ博士など、生態学的な面もあって、砂虫を中心とするアラキスの生態系にも興味をひかれます。何回でも繰り返し読み込んで色々な方面から楽しむのもまた面白い。
デューンシリーズ
この後もアラキスの物語は続いていきます。ポウルたちやアラキスのその後が気になる方は下記もどうぞ。